東京大学 農学生命科学研究科 お知らせ

平成23年度秋の褒章で紫綬褒章を受章-西澤直子 東京大学名誉教授(農学国際専攻)-

西澤直子名誉教授が、植物栄養学の研究における功績により、平成23年度秋の褒章で紫綬褒章を受章されました。

西澤直子 東京大学名誉教授
西澤直子 東京大学名誉教授

西澤先生は、植物の鉄栄養研究において多大な業績をあげられました。イネ科植物は土壌中の溶けにくい鉄を利用するために、根からムギネ酸類を分泌し、鉄ムギネ酸類複合体として吸収します。ムギネ酸類やその生合成前駆体であるニコチアナミンは、体内での鉄の移行にも関与し、植物が効率的に鉄を体内移行させ、細胞内で利用するために重要な役割を果たしています。先生は、ムギネ酸類の生合成経路を解明し、すべての酵素の遺伝子の単離を始めとして、多くの鉄の吸収・移行・細胞内利用に関与する遺伝子を単離してきました。これらは鉄栄養により発現が制御されますが、この応答機構は全く未解明でした。高等植物の微量要素欠乏応答性シス配列として最初の発見となった2つの鉄欠乏応答性シス配列の同定、これらに結合して遺伝子発現を制御する2つの新規転写因子の同定、この転写因子によって制御される鉄欠乏誘導性転写因子の同定により、先生は高等植物の鉄栄養制御に関わる多段階の遺伝子発現制御ネットワークを明らかにしました。また、これらの鉄代謝に関わる遺伝子を利用して鉄欠乏耐性植物、高鉄含有米などを作出し、圃場試験にも成功しています。鉄欠乏耐性植物の作出は、石灰質土壌における植物生産の向上をもたらし、食料の増産ばかりでなく、二酸化炭素の減少による地球温暖化防止や砂漠化の防止などの環境問題への貢献、バイオマスエネルギー増産などによるエネルギー問題の解決にも貢献することが期待されます。これらの発見や、鉄欠乏耐性イネの作出と圃場検定は、高等植物の鉄栄養における基礎と応用の両面で一貫した成果を上げた極めて先駆的な研究であるといえます。