大政謙次教授

このたび、大政謙次教授が農学、特に生物環境情報工学分野の研究における功績により、紫綬褒章を受章されました。

大政先生は、植物が種によって異なる特徴ある3次元空間構造をもち、また、その機能が、環境との相互作用で、空間的に異なっていることに注目し、蒸散や光合成、成長などの基本的な植物の機能を、2次元さらには3次元で画像計測し、空間情報解析を行うための新しい手法の開発とその応用に関する研究を、世界に先駆けて行ってこられました。その特徴は、細胞や個体レベルの研究とフィールドや航空機、人工衛星からのリモートセンシングの研究を融合させ、それまでは困難であった2次元、3次元の情報を用いた解析を可能にし、植物機能と環境との関係の理解を深化させた点にあります。そして、植物の環境応答や機能解明に関する研究を通して、農学・植物科学や環境学の分野における新しい研究法として発展させ、情報通信技術(ICT)の利用促進と併せて、実利用の面でも多くの貢献をされました。例えば、熱赤外画像による葉温、気孔反応、蒸散速度、大気汚染ガス吸収量分布の推定、クロロフィル蛍光画像による光合成機能解析、核磁気共鳴(NMR)画像による根系や土壌の水分分布の推定などの研究は、先駆的な研究として位置づけられており、遺伝子のスクリーニングや解析を含む農学・植物科学や環境学分野の研究に広く用いられています。また、最近開発された葉緑体レベルでの光合成機能解析のためのクロロフィル蛍光の3次元リアルタイム共焦点レーザ顕微画像計測法も世界で最初の研究成果です。さらに、植物の形状や群落構造、バイオマス、気孔反応、蒸散、光合成などの3次元での計測や複合リモートセンシングに関する研究は、この分野の先導的研究として、日本だけでなく世界の研究者にインパクトを与え、植物環境応答のモニタリングや解析の分野だけでなく、表現型(Phenotype)を遺伝子型と環境の両面から研究しようとする新しい分野である植物フェノミクス研究などに多大な影響を与えています。これらの研究から得られた知見を、農業情報化や植物工場などの最先端農業技術の研究、フィールド調査や航空機、人工衛星などからの広域リモートセンシングの研究、大気汚染や温暖化、砂漠化などを中心とした地球環境・空間情報研究などに適用し、新分野の創成に貢献されてきました。

大政先生はこれらの業績に関して、科学技術庁長官賞(研究功績者表彰)や日本農学賞・読売農学賞など、数多くの権威ある賞を受賞されており、高い評価を受けておられます。この度のご受章をお喜び申し上げるとともに、今後のご健勝と益々のご活躍をお祈り申し上げます。