第三回放射能の農畜水産物等への影響についての研究報告会

-東日本大震災に関する救援・復興に係る農学生命科学研究科の取組み-

2012年5月26日(土) 13:00~17:00

Q&A

【田野井先生】
Q. パワーポイントの内容をHPにアップさせるか、会場での写真撮影を許可してほしい。
A. 会場である安田講堂は関係者以外撮影禁止です。また、発表の内容については、Ustream等の動画でHPにおいて公表しています。
【高田先生】
Q. なぜ自然の中で実験しないのか?
A. (自然とは現地栽培条件という意味であると解釈の上で、)本試験は、促成栽培を行うことで、2012年度産のモモ果実でのセシウム濃度を見たものです。自然条件では事前の結果は得られず、収穫に間に合いません。また、用いた樹は2012年1月に伊達市の現地園より掘り取った、現地栽培条件下の樹体です。なお、現地栽培条件下での試験は継続して行っております。
Q. チェルノブイリと比較できる植物での調査は?
A. 福島県の主力果樹の一つである、モモで試験を行っています。この樹種はチェルノブイリでも試験例が少なく比較を行うものではありません。チェルノブイリでも知見のあるブドウなどでの試験も行っていますが、福島原発事故の対策として知見が少なく、また主力品種である樹種(モモ・カキ)での調査が優先と考えています。
【森田先生】
「除染後の農地においても、放射性セシウムはゼロになりません。」
 除染後の農地においても放射性セシウムがゼロにならないことは、ご指摘のとおりです。どの除染方法を指してのコメントであるか分かりませんが、私の提案内容による資源作物の栽培によってファイトレメデフィエーション効果も期待できる可能性については指摘しましたが、ゼロにできるということは申しておりません。ただし、この方法で汚染物質を集めて減量できますので、その後の集中管理には大いに役立つ可能性があります。放射能は減らすことはできませんので、現実的な対応としては減量化による集中管理ではないかというのが私の考え方です。
「放射性セシウムを吸収した資源作物は利用できるのでしょうか。」
 資源作物を栽培した場合、その作物が放射性セシウムを吸収することは当然、予想されます。放射性セシウムを含む資源作物を利用できるかどうかは濃度によると思います。私が栽培試験を始めたいわき市は、福島県で濃度が相対的に低い地域であり、それも地域選定にあたって大きな理由の一つとなりました。放射性セシウムをどれくらい吸収するかは、東京大学大学院農学生命科学研究科の中西先生・田野井先生にご協力頂いて、データを得たいと考えています。放射性セシウムを含む資源作物から製造したペレットを燃焼させた場合、放射性物質は灰と塵に残ると予想されます。もちろん、これから実証試験を行って確認していく必要がありますが、これまでの研究成果から灰と塵はフィルターを使って外に出さないようにすることができると考えていますし、そのための技術開発を行うことができると考えています。それが可能となれば、資源作物をさらに減量化することで、放射性物質の集中管理がより効率的に行うことができることになります。なお、どこの地域でもできると想定しているわけではなく、放射性セシウムの濃度が低いところから始めて、徐々に濃度の高い地域に広げていくことで可能性を追求したいと考えています。このような対応では十分ではない地域もあることも予想されますので、オールマイティな解決策だとは考えていません。汚染程度や地域事情も考慮して、それぞれの地域に最適な対応策を選択するべきだと思います。
「植物の提案のみでは、事業の実現性が判断できません。プラントの提案がセットされていない。」
 今回の提案では、資源作物の栽培とエネルギー化とをセットにしています。確かに、いつまでに、どこまで実現できるかについての具体的な工程表を示すことはできていませんが、事業化を想定した提案ですので、将来的にプラントを設置することも当然、想定しています。ただし、可能性の検討としてはまず原料となる資源作物の選定と、その資源作物の栽培システムの確立を先行させなければなりません。すなわち、原料あってのプラントですし、原料の種類によってプラントの性能を決めて、技術開発をしていくことになり、その反対ではありません。すでに東北地方ではペレットストーブがある程度普及しており、ペレット化のプラントの設置については実現性がかなり高いことは確かですし、栽培試験地の近くでもペレット工場があることは確認しています。ただ、原料が異なるとペレット化の技術も異なりますので、それが実現できていない段階で、具体的なプラント計画を立てることは効率的ではありません。講演の中でも申し上げましたように、今年度、収穫できた材料を使ってペレット化の技術開発を進める予定で、その進捗状況をみながらプラントの具体化を考えていく予定です。限られた時間で十分な説明ができませんでしたが、原料とプラントをセットにして考えています。なお、一言付け加えておきたいと思いますが、今回想定している地域で栽培した資源作物から製造したペレットを、ペレットストーブ用に用いることは、灰および塵のトラップという観点から現実的ではなく、バイオマスボイラーでの燃焼を想定すべきだと考えています。
「福島以外の土地でも同様のバイオマスエネルギーが実現した場合、汚染地福島でのバイオマスエネルギー生産は事業化できそうですか? 生産地農家の思いと消費地市民の思いはかけ離れています。わざわざ福島の産物(エタノールも含めて)を消費者は買うでしょうか。」
 福島以外の土地でという問題提起は、今回の提案の応用問題も含んでいると思います。すなわち、いわゆる休耕田における資源作物の栽培とエネルギー化は休耕田対策や耕作放棄地対策として、放射能汚染地域に限らず、東北や北陸の水稲単作地域に展開できる可能性が大きいと考えています。そういう地域で今回のシステムが確立することと、福島県での実施とは競合するものではないと考えています。講演の中でも一言だけふれたと思いますが、今回の提案ではエネルギーの地産地消を想定しています。すなわち、資源作物を栽培した地域でそれをペレット化し、その地域で燃焼させてエネルギーとして、その地域でエネルギーを利用するという地産地消システムを考えています。エネルギーの製造量から考えても、その程度のものだと思います。すなわち、エネルギーの生産地と消費地が同一であり、質問のような問題が起こりません。なお、福島の製品が売れないというのはご指摘のとおりであり、それがいわゆる風評被害だと思います。そこが、今回の提案の背景にあるのは、講演の中でお話ししたとおりです。
「エネルギー作物は連作障害はおこりますか?」
 ここで想定している資源作物は多年生作物であり、初めから連作することを想定しています。まだ日本における栽培経験が少ないので断定的なことはいえませんが、ほとんど肥料をやらずに栽培することが可能で、少なくとも数年間はバイオマス生産が落ちないことが確認されています。
「農耕不可能に近い圃の利用(活用)は重大な課題である。この点に着目していただき、荒れる日本国土をこの機会に生き返らして欲しい。そして、バイオエネルギー以外のエネルギーが開発された後には、再び圃として利用出来る様、除染を含め、両面からの研究を願いたい。」
 本来、作物を栽培できる水田を利用しないでおくのはもったいない、荒れるに任せるのであれば、いざというときに再び使おうとしてもできないというのが、今回の提案の背景にあることは、講演の中でお話ししたとおりです。また、資源作物の栽培によって水田を保全し、ファイトレメディエーションによって放射能が低濃度となり、水稲を栽培できる、栽培した米が売れるようになればそのようにするというのも、提案内容です。そうすることで、食料安全保障とエネルギー安全保障との両者を推し進めることが可能だと考えています。
 ただし、本提案がどこにでも有効だとは考えていません。放射能汚染が低い地域から始めて(いわき市を選定したのはそれが一つの大きな理由です)、徐々に高濃度の地域へ展開していくことを想定していますが、半永久的に作物栽培が不可能な地域が生じた可能性もあります。放射能濃度や地域事情も考慮して、それぞれの地域で最適な対応策を考え、選択するべきだと考えています。
回答教員一覧
田野井 慶太朗 放射性同位元素施設・准教授
高田 大輔 附属生態調和農学機構・助教
森田 茂紀 附属生態調和農学機構・教授
« 第三回放射能の農畜水産物等への影響についての研究報告会 プログラム