発表者
小林 ゆり(東京大学大学院農学生命科学研究科 生物材料科学専攻 修士課程(当時))
齋藤 継之(東京大学大学院農学生命科学研究科 生物材料科学専攻 准教授)
磯貝 明(東京大学大学院農学生命科学研究科 生物材料科学専攻 教授)

発表概要

エアロゲルは、高い空隙率と大きな表面積を有する多孔体であり、優れた断熱・防音・絶縁性を示します。しかし、従来のエアロゲルは非常に脆く、取り扱いが難しいという課題があります。一方、自然界の代表的な多孔体である樹木は、強靭なセルロースナノファイバーを巧みに利用して巨体を支えています。本研究では、木材からセルロースナノファイバーを単離分散し、強靭で透明なエアロゲルを形成させることに成功しました。このエアロゲルは圧縮しても割れず、折り曲げることも可能です。さらに、空気よりも低い熱伝導率を示します。このような性質のエアロゲルは、断熱窓や電子デバイス等の高性能化・省エネルギー化に寄与することが期待されます。

発表内容

図1 a)1%CNFヒドロゲル,b)ヒドロゲルの液晶性を示す複屈折像,c)CNFの配列様式(ポリドメイン型ネマチック液晶性配列)(拡大画像↗

図2 a)光透過性のCNFエアロゲル,b)エアロゲル内部でCNFが1軸配向した骨格部位(ポリドメイン型ネマチック液晶性配列の1ドメイン:図1c参照)を示す電子顕微鏡像,c)CNFエアロゲルは圧縮しても割れず、折り曲げることも可能(拡大画像↗

図3 本研究の概要を示したアートワークがAngewandte Chemie International Edition誌の表紙に採用(拡大画像↗

エアロゲルとは、多孔質材料の1種であり、90%以上の高い空隙率と1グラム当り数百平方メートルの内部表面積を有する特異的な構造体です。エアロゲルは、断熱材、防音材、絶縁材を始めとして、触媒担体や分離材、吸着材等としても優れた性能を示すため、近年材料科学分野で注目されています。中でも、空気よりも低い熱伝導率を示すエアロゲルは、劇的な省エネルギー効果が期待される超断熱材としての実用化が検討されています。しかし、従来のエアロゲルは球状ナノ粒子がランダムに連結した不均一骨格を形成しています。そのため、エアロゲルは脆く、物性が密度に強く依存してしまうため、取り扱いや品質制御が難しいという課題がありました。

一方、自然界の代表的な多孔体である樹木は、強靭なセルロースナノファイバー(CNF)を巧みに利用して巨体を支えています。樹木中のCNFは、自己組織化した強固な集合体を形成しています。東京大学大学院農学生命科学研究科の齋藤継之准教授と磯貝明教授の研究グループは、世界で初めて、木材からCNFを単離分散させる手法を報告しています(Saito et al. Biomacromolecules 2006)。分散したCNFは、幅が約3ナノメートルと極めて細く、市販の多層カーボンナノチューブに匹敵する超高強度と、1グラム当り約800平方メートルの大表面積を併せ持っています。つまり、CNFはエアロゲルの骨格成分に適した素材と言えます。そこで、CNFでエアロゲルを形成させる検討を行いました。

研究グループは、水中で単離分散したCNFが自己組織化し、液晶性を示す性質に着目しました。CNFの水分散液に酸を滴下し、1時間程室温で静置すると、液晶性のCNF配列を固定化したヒドロゲルになります(図1)。このヒドロゲル中の水分をアルコールで置換した後、超臨界乾燥という特殊な乾燥法で処理したところ、高い光透過性を示すエアロゲルが得られました(図2a)。このエアロゲルは、3次元的に自己組織化したCNF骨格を有しています(図2b)。このような秩序化した骨格構造を有するエアロゲルはこれまでに報告されていません。また、従来のエアロゲル調製でも水溶液をヒドロゲル化し、アルコール置換した後に超臨界乾燥するプロセスは同様ですが、ヒドロゲル化する際に数日間加熱することが一般的で、室温・1時間でヒドロゲル化が完了する本プロセスは省エネルギーと言えます。

CNFエアロゲルは透明性が高いだけでなく、優れた力学物性も示しました。従来のエアロゲルは、力学物性が密度に強く依存し、脆く、少し圧縮しただけで割れてしまいます。対照的に、本CNFエアロゲルの力学物性は密度に線形に比例し、圧縮しても割れず、折り曲げることすら可能です(図2c)。さらに、CNFエアロゲルは空気よりも低い熱伝導率を示しました。このような性質のエアロゲルは、断熱窓や電子デバイス等に組み込めば高性能化・省エネルギー化に寄与することが期待されます。また、触媒担体や分離材、吸着材等としての利用も可能です。豊富で安価なバイオマス(木材)を由来とする本CNFエアロゲルは、資源循環型社会の構築に貢献しうる新規エコマテリアルです。

なお、本研究成果は化学分野における最高峰の学術誌の1つであるAngewandte Chemie International Edition誌に掲載され、研究概要を示したアートワークが冊子の表紙に選ばれました(図3)。また、イギリス化学会発行のニュースマガジン「Chemistry World」にも取り上げられました。

発表雑誌

雑誌名
「Angewandte Chemie International Edition」
論文タイトル
Aerogels with 3D Ordered Nanofiber Skeletons of Liquid-Crystalline Nanocellulose Derivatives as Tough and Transparent Insulators
著者
Yuri Kobayashi, Tsuguyuki Saito, and Akira Isogai
DOI番号
10.1002/anie.201405123
アブストラクト
http://dx.doi.org/10.1002/anie.201405123

問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科 生物材料科学専攻 製紙科学研究室
准教授 齋藤 継之
Tel:03-5841-8199
研究室URL:http://psl.fp.a.u-tokyo.ac.jp/