発表者
宮田 慎吾(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 食品生化学研究室 博士課程3年生)
井上 順(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 食品生化学研究室 准教授)
清水 誠(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 食品生化学研究室 助教)
佐藤 隆一郎(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 食品生化学研究室 教授)

発表のポイント

◆ホップに含まれるフラボノイドであるキサントフモールが脂質合成転写因子SREBP (注1)の活性化を抑制し、肥満や脂肪肝を改善することを明らかにしました。

◆キサントフモールがSREBPの活性を制御すること、およびその分子メカニズムとしてSREBPの小胞体-ゴルジ体間輸送を妨げ、プロセシングによる活性化 (図1) を抑制することを初めて解明しました。

◆キサントフモールが生活習慣病予防効果を持つ機能性食品として応用されることが期待されます。

発表概要

肥満や糖尿病などの生活習慣病は脂質代謝の破綻を発症基盤とする疾患です。その調節機構の中心に転写因子SREBPが存在します。SREBPの過剰な活性化は脂質合成を過度に促進し、脂肪肝やインスリン抵抗性を惹起することが知られています。したがって、生活習慣病予防のためにはSREBP活性を適度に抑制することが望まれます。
 東京大学大学院農学生命科学研究科 佐藤隆一郎教授、井上順准教授らの研究グループは、SREBPの活性を低下させ脂質合成を抑制する食品由来成分として、ホップに含まれるフラボノイドであるキサントフモールを見出しました。さらに、この化合物がCOP II輸送小胞 (注2) の構成タンパク質Sec23/24に結合し、SREBPの小胞体-ゴルジ体間輸送を妨げることにより、その活性化を抑制するという分子機構を解明しました。また、キサントフモールを高脂肪食とともにマウスに摂食させることで、肝臓におけるSREBP活性化の抑制を伴い、肥満や脂肪肝が抑えられることを明らかにしました。
 本研究の成果は、生活習慣病予防効果を持つ新たな機能性食品の開発に貢献するものと期待されます。

発表内容

図1 SREBPのプロセシングによる活性化
合成された前駆体SREBPはSCAP, Insigと複合体を形成し小胞体膜上に留まっていますが、細胞内のステロール濃度が低下すると、SCAP-SREBPはCOP II小胞に取り込まれゴルジ体へ輸送されます。その後S1P, S2Pにより切り出されたN末端側領域が、活性型SREBPとして核へ輸送された後に転写活性化能を発揮します。(拡大画像↗

図2 キサントフモールによるSREBPプロセシング抑制機構の概略と生体内における意義
キサントフモールはSec23/24に結合し、SREBPのCOP II小胞への取り込みを阻害することで、SREBPの小胞体-ゴルジ体間輸送を妨げ、プロセシングを抑制することを明らかにしました。また、マウス個体においてSREBP活性化抑制を伴い、肥満や脂肪肝を改善しました。(拡大画像↗

近年、食の欧米化や高齢化の進行に伴い、肥満やII型糖尿病といった生活習慣病の罹患者数、およびそれに起因する動脈硬化性疾患による死者数は増加の一途を辿っています。生活習慣病は一度発症すると完治は非常に困難であると言われており、その対策として、自発的な食生活の改善、すなわち食品が保有する機能の有効活用による予防が重要となります。また、生活習慣病の発症基盤は主に脂質代謝制御の破綻であり、その調節機構の中心に転写因子SREBPが存在します。SREBPは脂質合成を包括的に制御しており、その過剰な活性化は生活習慣病の引き金の一因として挙げられています。したがって、生活習慣病予防を考えたとき、SREBP活性を抑制することは有効な手段であると考えられます。

東京大学大学院農学生命科学研究科 佐藤隆一郎教授、井上順准教授らの研究グループは、 SREBP応答配列を有する脂肪酸合成酵素遺伝子(注3) のプロモーター領域を挿入したルシフェラーゼレポーター遺伝子の安定発現株を用いて、その活性を低下させる食品由来成分を探索し、特に強い抑制効果を持つ化合物として、ホップに含まれるフラボノイドであるキサントフモールを見出しました。この化合物をヒト肝がん由来Huh-7細胞に処理すると、活性型SREBPが減少し、標的遺伝子発現の低下、新規脂肪酸・コレステロール合成の抑制が観察されました。続いて、免疫染色実験、超遠心による細胞分画実験から、キサントフモールがSREBPのプロセシングに必要な小胞体-ゴルジ体間輸送を抑制し、SREBPを小胞体に留めることが分かりました。次に、キサントフモールを共有結合したアガロースビーズ(理化学研究所・長田裕之先生、齋藤臣雄先生よりご供与)を用いたプルダウン実験の結果、キサントフモールがSREBPの輸送を担うCOP II小胞の構成タンパク質Sec23/24に結合することが明らかとなりました。さらに、キサントフモールはSREBPのCOP II輸送小胞への取り込みを抑制することが示唆されました。また、キサントフモールの生体内における効果を検証するため、マウスに0.2%または0.4%のキサントフモールを混合した高脂肪食を7週間摂食させたところ、肝臓における活性型SREBPが減少し、コントロール群と比較して体重、体脂肪量、肝臓重量、肝臓中脂質などが有意に低下しました。

以上の結果から、キサントフモールはSec23/24に結合することによりSREBPのCOP II小胞への取り込みを阻害し、小胞体からゴルジ体への輸送を妨げ、SREBPの活性化を抑制するという分子機構を解明しました。また、キサントフモールはマウス個体において肝臓におけるSREBP活性化の抑制を伴い、肥満や脂肪肝を改善することを明らかにしました (図2)。キサントフモールはホップに豊富に含まれるフラボノイドであり、抗酸化、抗炎症成分として知られ、抗がん作用を発揮することが報告されています。これまでに抗肥満効果も報告されていますが、その詳細なメカニズムは解明されていませんでした。本研究では、キサントフモールが脂質合成のマスターレギュレーターであるSREBPの活性を制御することを発見し、その作用が抗肥満に寄与することを示すとともに、分子レベルでの作用メカニズムを解明しました。この成果は、生活習慣病予防に関して科学的エビデンスに基づく新たな機能性食品の開発へ応用されることが期待されます。

発表雑誌

雑誌名
「The Journal of Biological Chemistry」
論文タイトル
Xanthohumol Improves Diet-induced Obesity and Fatty Liver by Suppressing Sterol Regulatory Element-binding Protein (SREBP) Activation
著者
Shingo Miyata, Jun Inoue, Makoto Shimizu, Ryuichiro Sato
DOI番号
10.1074/jbc.M115.656975
論文URL
http://www.jbc.org/content/early/2015/07/03/jbc.M115.656975

問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 食品生化学研究室
准教授 井上 順
Tel:03-5841-5179
Fax:03-5841-8029
研究室URL:http://webpark1213.sakura.ne.jp/

東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 食品生化学研究室
教授 佐藤 隆一郎
Tel:03-5841-5136
Fax:03-5841-8029
研究室URL:http://webpark1213.sakura.ne.jp/

用語解説

注1 SREBP (sterol regulatory element-binding protein)
細胞内の脂質代謝制御の中枢を担う転写因子です。ステロール枯渇下やインスリン刺激時にプロセシングを受け活性化し、脂肪酸・コレステロール合成系酵素の遺伝子発現を誘導することにより脂質合成を促進します。II型糖尿病マウスの肝臓ではSREBPの発現、プロセシングが過剰に亢進していること、その活性抑制により病状が改善することなどが報告されており、SREBPは抗生活習慣病のターゲットとして有効であると考えられます。
注2 COP II (common coated protein II) 輸送小胞
細胞内で小胞体からゴルジ体へのタンパク質輸送を担う小胞です。積み荷タンパク質は、構成タンパク質であるSec23/24複合体に結合することでCOP II小胞に取り込まれ、ゴルジ体へ輸送されます。
注3 脂肪酸合成酵素
マロニルCoAとアセチルCoAから脂肪酸を合成する酵素タンパク質です。脂肪酸合成酵素はプロモーター上にSREBP応答配列を有しており、SREBPの代表的な標的遺伝子として知られています。