発表者

古橋 麻衣(名古屋大学大学院生命農学研究科 応用分子生命科学専攻 大学院学生;当時)
畑佐 行紀(名古屋大学大学院生命農学研究科 応用分子生命科学専攻 大学院学生;当時)
河村 沙絵(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 大学院学生)
柴田 貴広(名古屋大学大学院生命農学研究科 応用分子生命科学専攻 准教授、JSTさきがけ研究者 兼任)
赤川   貢(大阪府立大学大学院生命環境科学研究科 応用生命科学専攻 准教授)

内田 浩二(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 教授)

発表のポイント

◆ポリフェノールがタンパク質を自然抗体に認識されるリガンドに変換する反応メカニズムを明らかにしました。

◆ポリフェノールの一種レスベラトロールの代謝物であるピセアタンノールが、リジルオキシダーゼ様活性を有し、タンパク質重合体を生成することを初めて発見しました。また、そのタンパク質重合体が自然抗体によって認識されることを見出しました。

◆今回新たに発見した反応が、ポリフェノールによる疾病予防メカニズムの一端を担っていることが期待されます。

発表概要

ポリフェノールは様々な病気の予防に有効な成分として注目されていますが、その作用メカニズムの多くはいまだ解明されていません。
  今回、東京大学大学院農学生命科学研究科の内田浩二教授らは、ポリフェノールが免疫系に与える影響に着目し、ポリフェノールと自然抗体(注1)との関係について調べました。その結果、ポリフェノールがタンパク質と反応することにより、タンパク質中に自然抗体のリガンドが生成することを発見しました。特に、赤ワインに含まれるレスベラトロールの代謝物であるピセアタンノールが生成するエピトープを詳細に解析した結果、ピセアタンノールはシッフ塩基を介してタンパク質分子を重合させることが明らかとなり、この重合体化タンパク質が自然抗体に認識されていることが示されました。この結果から、低分子化合物による自然抗体リガンド生成の分子メカニズムが明らかとなり、また、ポリフェノールによる疾病予防メカニズムの一端に、タンパク質の重合体形成が関与している可能性が示唆されました。

発表内容

図1 ピセアタンノールによる自然抗体リガンドの生成機構
(拡大画像↗)

ポリフェノールは果物や野菜に豊富に含まれ、様々な疾病への予防効果が期待されています。そのメカニズムの全貌は明らかにされていませんが、ポリフェノールの持つ高い抗酸化力が関与していると考えられます。
  自然抗体は、主にIgM型のアイソタイプを持ち、血中に恒常的に存在しています。病原体が体内に侵入した際の防御反応および生体内の不要因子の除去を担っており、生体の恒常性維持に関与しています。これまでの研究で、抗酸化物質と反応させたタンパク質が自然抗体に認識されることが明らかとなっていました。そこで我々は、抗酸化物質であるポリフェノールと自然抗体との関係に着目し、研究を進めました。
  血中の代表的な低分子化合物キャリアーである血清アルブミンとポリフェノールを反応させたのち、自然抗体との結合性を調べたところ、シアニジンやマルビジン、ピセアタンノールなど種々のポリフェノールで修飾したタンパク質が、自然抗体によって認識されることが明らかとなりました。その中でも高い結合性を示したピセアタンノール修飾タンパク質について解析を行ったところ、ピセアタンノールとの反応により、タンパク質が重合すること、また自然抗体が重合体化タンパク質を特異的に認識していることを見出しました。続いて、質量分析計を用いて、ピセアタンノールによるタンパク質の構造変化を詳細に解析しました。その結果、タンパク質中のリジン残基が酸化されamino adipic semialdehydeに変換され、さらに他のタンパク質中のリジン残基とAASが反応しシッフ塩基を形成することにより、dehydrolysinonorleucine が生成し、リジン二分子からなる架橋構造ができることが明らかとなりました。この結果から、ピセアタンノールはリジルオキシダーゼ様活性を有し、リジン残基同士の架橋反応によってタンパク質を重合させることにより、自然抗体のリガンドを生成することが示されました。(図1)
  ピセアタンノールが自然抗体リガンドを生成するという今回の発見は、ポリフェノールによる自然免疫系の活性化および疾病予防メカニズムの解明につながることが期待されます。またピセアタンノールは、赤ワインに含まれるレスベラトロールの代謝産物であることから、赤ワインおよびレスベラトロールの生理活性の一端をピセアタンノールのリジルオキシダーゼ活性が担っている可能性が示唆され、食品の機能性を解明する上で新たな研究の手がかりとなることが期待されます。

この研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(科学研究費補助金)新学術領域研究「酸素生物学」、基盤研究(A)、JSTさきがけの支援を受けて行われました。

発表雑誌

雑誌名
:「Biochemistry」(掲載日:2017年9月5日)
論文タイトル
:Identification of Polyphenol-Specific Innate Epitopes That Originated from a Resveratrol Analogue
著者
:Mai Furuhashi, Yukinori Hatasa, Sae Kawamura, Takahiro Shibata, Mitsugu Akagawa, and Koji Uchida*
DOI番号
:10.1021/acs.biochem.7b00409
論文URL
http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/acs.biochem.7b00409

問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命化学専攻 食糧化学研究室
教授 内田 浩二(うちだ こうじ)
TEL:03-5841-5127 
Fax:03-5841-8026 
E-mail:a-uchida<アット>mail.ecc.u-tokyo.ac.jp <アット>を@に変えてください。
研究室URL:http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/foodchem/index.html

用語解説

注1 自然抗体
生体の初期防御応答系である自然免疫系で働く抗体。体内に侵入した病原体や生体内の不必要な分子を捕捉し除去を促す。