発表者
前川修吾(東京大学生物生産工学研究センター 日本学術振興会特別研究員)
石田哲也(東京大学生物生産工学研究センター 特任助教 当時)
柳澤修一(東京大学生物生産工学研究センター 教授)

発表のポイント

◆リボソームに含まれるリボソームRNA(rRNA)の成熟に必須のタンパク質APUM24を発見しました。

◆シロイヌナズナのAPUM24遺伝子の発現抑制変異体では、糖によって促進されるリボソーム生合成に異常が起き、糖濃度依存的にリボソームストレスと呼ばれるストレスを受けた状態になることが分かりました。

◆光合成による糖の合成に合わせた植物成長の調節の仕組みの解明によるバイオマス増産の技術開発に貢献することが期待されます。

発表概要

タンパク質の製造装置であるリボソームは数多くの段階を経て合成されます。植物のリボソーム合成の各々の段階が何によってどのように進められているかについて、多くのことが分かっていません。本研究は、シロイヌナズナのAPUM24タンパク質がリボソーム生合成において非常に重要な役割を担っていることを明らかにしました。リボソームの生合成の途中に異常が生じると、細胞はそれをストレスと感じて細胞増殖を停止させる仕組みをもっていることが動物や酵母で知られています。そのようなストレスはリボソームストレスと呼ばれ、動物や酵母ではリボソームストレスに関する研究が盛んに行われています。しかし、植物のリボソームストレスについては、ほとんどわかっていませんでした。本研究は、APUM24遺伝子の発現が抑制された変異体では、糖条件に依存してリボソーム生合成に異常が生じ、このリボソームストレスによって糖による生育促進効果が起こらなくなっていることも明らかにしました。これらの発見は、糖の生合成量に合わせた成長という植物の成長制御の基本的な仕組みの解明によるバイオマス増産技術の開発に貢献することが期待されます。また、リボソームストレスを受けた植物は葉や根の成長や形態形成に異常が生じることから、植物の形づくりの理解にも貢献することが期待されます。

発表内容

図1 APUM24発現の低下によって引き起こされるリボソームストレスのモデル図(拡大画像↗)

生命活動に必須な各種のタンパク質は、その製造装置であるリボソームによって作り出されます。リボソームは、多数のタンパク質が足場となるrRNAに集合して構築されます。rRNAは一つの前駆体として転写によって合成された後、段階的な成熟過程を経ることで、不要な中間介在配列(スペーサー領域)などが取り除かれ、分割された成熟したrRNAとなります。
  今回、APUM24というシロイヌナズナのタンパク質が、rRNAの特定の成熟過程を進めるのに必須の役割をもつことを発見しました。APUM24遺伝子の発現抑制変異体では、取り除かれるべきスペーサー領域が残ったままの中間体が、生育時の培地中に含まれる糖の濃度に依存して過剰に蓄積することを発見しました。また、そのスペーサー領域にAPUM24タンパク質が結合していることもわかりました。このスペーサー領域の成熟を進めるためのrRNA切断酵素は植物ではわかっていませんでしたが、rRNAの成熟が行われている核小体(注1)で、APUM24タンパク質と酵母のrRNA切断酵素と最も類似したシロイヌナズナのタンパク質(AtLAS1)が相互作用していることを発見しました。これらのことから、APUM24タンパク質はAtLAS1をrRNA上の切断すべき場所に連れてくる機能をもっていることが考えられました(図1)。
  さらに、APUM24遺伝子の発現抑制変異体では糖条件依存的に核小体が小さくなっていることを発見しました。リボソームの生合成に異常が生じると細胞増殖を停止するというシステムが動物や酵母において知られています。リボソーム生合成に異常を生じるストレスはリボソームストレスと呼ばれ、このストレスを受けると核小体の形が変わることが知られていますが、植物におけるリボソームストレスに関する知見はほとんどありません。APUM24発現抑制変異体では糖条件依存的にrRNAの成熟異常が生じ、また、それとともに核小体が小さくなっていることを明らかにしました。通常、適量の糖は植物のエネルギー源となるため植物の成長を促進しますが、その適量の糖によってAPUM24発現抑制変異体ではrRNAの成熟異常が起き、リボソームストレスを生じて、糖による生育促進効果がほとんど起こらなくなっていることを見出しました(図1)。APUM24発現抑制変異体におけるリボソームストレスは光合成が行われていない暗所では認められず、光合成が行われている明所でのみ認められたことから、光合成による糖の合成量に合わせた成長の調節という植物成長の最も基本的な制御の仕組みの解明に貢献し、植物バイオマス増産技術開発の基礎となることが期待されます。また、リボソームストレスを生じている植物では葉や根の成長や形態形成にも異常が生じることがわかってきているため、植物の形づくりの解明を通してもバイオマス増産のための技術開発に貢献することが期待されます。

発表雑誌

雑誌名
:「The Plant Cell 」(オンライン版:12月14日)
論文タイトル
:Reduced expression of APUM24, encoding a novel rRNA processing factor, induces sugar-dependent nucleolar stress and altered sugar responses in Arabidopsis thaliana
著者
:Shugo Maekawa, Tetsuya Ishida, Shuichi Yanagisawa* (*責任著者)
DOI番号
:10.1105/tpc.17.00778
論文URL
http://www.plantcell.org/content/early/2017/12/13/tpc.17.00778

問い合わせ先

東京大学生物生産工学研究センター 植物機能工学部門
教授 柳澤 修一(やなぎさわ しゅういち)
Tel:03-5841-3066
Fax:03-5841-8030
E-mail:asyanagi<アット>mail.ecc.u-tokyo.ac.jp  <アット>を@に変えてください。
研究室URL: http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/ppk/home/

用語解説

注1 核小体
細胞核の中に存在する構造であり、ここでリボソーム生合成が開始される。様々なストレスによって、その構造が変わることがわかってきている。