発表のポイント

◆細菌に存在する抗菌剤等の薬剤を排出する多剤排出トランスポーター(注1)の一つ、MdfAの構造解析に成功し、初めてMdfAの外開き構造を明らかにした。
◆膜内に存在する特定の酸性残基のプロトン化(注2)が、外開き構造から内向き構造への引き金となることを明らかにした。
◆精製MdfAタンパク質を脂質膜に組み込んだ形で初めて薬剤輸送活性を測定し、薬剤輸送に重要なアミノ酸残基を明らかにした。

発表概要

 細菌が薬剤耐性を引き起こす主な原因は、細菌膜上に存在する多剤排出トランスポーターと呼ばれるタンパク質が、投与された薬剤をポンプのように細菌外に汲み出してしまい、薬剤の効果を無効化することにあります。MFS(Major facilitator superfamily)型と呼ばれる多剤排出トランスポーターは細菌上に多数存在しますが、どのように薬剤分子を認識して細菌外に排出するのか、その分子機構については明らかになっていません。
 そこで高エネルギー加速器研究機構(KEK) 物質構造科学研究所、マルティン=ルター大学 Institut für Biochemie und Biotechnologie, HALOmem (ドイツ)、京都大学 医学研究科、東京大学 農学生命科学研究科、岡山大学 医歯薬学総合研究科ならびに自然生命科学研究支援センターからなる共同研究グループは、MFS型多剤排出トランスポーターの一つであるMdfAをモデルとした薬剤排出メカニズムの研究を行い、結晶構造解析・輸送活性実験・分子動力学シミュレーションにより、上記の薬剤分子輸送のメカニズムの詳細を明らかにしました。
  本知見は、薬剤分子排出への理解を深め、将来的には、多剤排出トランスポーターの働きを抑えることで、薬剤耐性菌に対抗する治療薬の開発に貢献できると考えられます。

詳細はプレスリリースをご覧下さい。

発表雑誌

雑誌名
:Nature Communications
論文タイトル
:Outward open conformation of a Major Facilitator Superfamily multidrug/H+ antiporter provides insights into switching mechanism
著者
:Kumar Nagarathinam, Yoshiko Nakada-Nakura, Christoph Parthier, Tohru Terada, Narinobu Juge, Frank Jaenecke, Kehong Liu, Yunhon Hotta, Takaaki Miyaji, Hiroshi Omote, So Iwata, Norimichi Nomura, Milton T. Stubbs and Mikio Tanabe
DOI番号
:10.1038/s41467-018-06306-x
論文URL
https://www.nature.com/articles/s41467-018-06306-x

問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科 アグリバイオインフォマティクス教育研究ユニット
准教授 寺田 透(てらだ とおる)
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Faxl:03-5841-1136
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