東京大学農学生命科学研究科プレスリリース

2008/10/24

アクアポリン11ノックアウトマウス腎臓における嚢胞形成機構の解明

発表者:岡田 晋治(応用生命化学専攻・助教)
三坂 巧(応用生命化学専攻・准教授)
田中 靖子(明治薬科大学・助教)
松本 一朗(東京大学・特任准教授)
石橋 賢一(明治薬科大学・教授)
佐々木 成(東京医科歯科大学・教授)
阿部 啓子(応用生命化学専攻・教授)

発表概要

生体膜の水の透過はアクアポリンというチャネルタンパク質によって制御されている。アクアポリンファミリーの1つアクアポリン 11 の遺伝子欠損マウスは、腎臓において多数の嚢胞形成が起き、生後まもなく死亡する。今回の論文では、その嚢胞形成の機構について、多発性嚢胞腎の嚢胞形成機構と類似していることを明らかにした。

発表内容

水は生体中で最多の成分であり、様々な生命活動にとって不可欠の役割を果たしている。生体には水を体の隅々まで行き渡らせるため、また、水を吸収・排出するために、生体膜を介した水輸送システムが存在する。その中心として働くのがアクアポリン (aquaporin, AQP) というタンパク質である。アクアポリンは生体膜で水・小分子を透過するチャネルとして機能する。アクアポリンファミリーの分子は単細胞微生物から植物、動物まで広く存在し、われわれ哺乳類には AQP0-AQP12 の 13 種が存在する。このアクアポリンに関する研究は数年前にノーベル賞の対象となったが、疾病との関わりについては不明な点が多々残されていた。

AQP0-AQP10 が形質膜に局在するのに対し、近年見いだされた AQP11, AQP12 の 2 種は細胞内小器官の膜に局在しており、その生理的役割は不明である。我々のグループは以前に Aqp11 遺伝子欠損マウス ( Aqp11 KO マウス ) を作出し、この KO マウスでは腎臓の近位尿細管において小胞体の空胞化と多数の嚢胞形成が起き、生後まもなく死亡することを報告し、 AQP11 の生理的重要性を示した (Morishita, Y., et al. , Mol. Cell. Biol. , 25 , 7770-7779, 2005) 。今回の論文では、 1 週齢の Aqp11 KO マウス腎臓の遺伝子発現特性を解析し、嚢胞形成の詳細な機構について解析した。

1 週齢の Aqp11 KO マウスの腎臓を摘出し、 DNA マイクロアレイ法によって、遺伝子発現特性を解析した。その結果として、 KO マウスでは、細胞増殖、細胞外マトリックス、アポトーシス、分化、免疫応答などに関連する遺伝子の発現が変動していることを明らかにした。また、組織化学的解析では、 (1) Myc , Egfr , Egf 遺伝子の発現変動および尿細管細胞の増殖、 (2) 小胞体ストレス経路でのアポトーシスの亢進、 (3) 尿細管周辺の線維芽細胞における細胞外マトリックス関連遺伝子の発現変化、などが観察された。こうした特徴は多発性嚢胞腎の嚢胞形成の特徴と類似していることを見出した。

以上の結果より、 Aqp11 KO マウス腎臓における嚢胞形成が、多発性嚢胞腎の嚢胞形成と同様の機構で起きている可能性が強く示唆された。今回の成果は AQP11 の生理的役割の解明に貢献するものであり、また、多発性嚢胞腎の発症機構の解明にもつながると期待される。

添付資料

 



  図:本研究のまとめ
  Aqp11 KO マウス腎臓における嚢胞形成が、多発性嚢胞腎の嚢胞形成と同様の機構で起きている可能性が強く示唆された。

発表雑誌

下記雑誌の 2008 年 10 月号に掲載
  The FASEB Journal, 22, 3672-3684 (2008)
  Okada, S., Misaka, T., Tanaka, Y., Matsumoto, I., Ishibashi, K., Sasaki, S., and Abe, K.
  Aquaporin-11 knockout mice and polycystic kidney disease animals share a common mechanism of cyst formation.

注意事項

報道の解禁は特に無し

問い合わせ先

阿部 啓子
   応用生命化学専攻 生物機能開発化学研究室
   ホームページ  http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/biofunc/

用語解説

チャネルタンパク質:
  生体膜に存在する膜貫通型タンパク質の一種で、その内部に物質の通路となる孔 ( あな ) を有する。各チャネルにはそれぞれ透過する物質の選択性がある。物質の透過は、生体膜内外の濃度勾配、電気化学的勾配に従って受動的に行われる。

形質膜:
  細胞膜ともいう。細胞内と細胞外を仕切る生体膜。

多発性嚢胞腎:
  polycystic kidney disease, PKD 。腎臓、肝臓に多数の嚢胞を生じる遺伝性疾患。常染色体優性型と常染色体劣性型がある。常染色体優性型は 1000-2000 人に 1 人に発症し、遺伝性疾患の中で最も頻度が高い。

 

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