東京大学農学生命科学研究科プレスリリース

2007/11/16

「真核生物で初めてのモリブデントランスポーターの単離と解析」

発表者:東京大学 生物生産工学研究センター 准教授 藤原 徹

発表概要

植物(シロイヌナズナ(注1))からモリブデントランスポーター(注2)を同定し、その機能を明らかにした研究の内容を、背景、研究経過、成果の意義を含めて発表する。

発表内容

モリブデン(注3)は窒素固定(注4)や植物の窒素代謝等に必須な金属であり、地球の窒素循環に極めて重要な役割を担っている。
  また、植物の必須元素(注5)であるが、その輸送を担う分子は真核生物では同定されていなかった。なお、細菌においてはモリブデンの輸送を担うトランスポーターは既に同定されており、その3次元構造も明らかにされている。
  本研究では植物(シロイヌナズナ)からモリブデントランスポーターを同定し、その機能を明らかにした。今回同定されたトランスポーターは真核生物では初めて単離されたものである。また、植物の必須元素としては唯一トランスポーターが同定されていなかった元素であるモリブデンを輸送するものであり、世界に先駆けてこのトランスポーターを同定した意義は高いと考えている。
  本研究におけるモリブデントランスポーターの単離のきっかけは、我々の研究グループで行っている成育に必要なホウ素(植物の必須元素)の量が異なるシロイヌナズナ変異株の解析であった。この研究の過程で、シロイヌナズナで良く使われる2つの異なる系統間で、葉のモリブデン濃度が数倍異なることを見出した。分子遺伝学的な解析によって、このモリブデン濃度の違いは1つの遺伝子に起った変異によってもたらされていることを明らかにした。この遺伝子は膜タンパク質をコードする遺伝子であり、パン酵母で発現させるとモリブデンの吸収量を十数倍に高める活性を持っていた。また、この遺伝子が破壊されたシロイヌナズナでは葉のモリブデン濃度が10%程度にまで下がることが明らかになった。また、単離されたモリブデントランスポーターはモリブデンに対する極めて高い親和性を持っていることを明らかにした。土壌にわずかしか存在しないモリブデンを効率良く吸収するために、今回単離されたモリブデントランスポーターは重要な役割を担っていることが明らかになった。
  今回同定されたモリブデントランスポーターを利用することで、窒素吸収の効率化等、将来の植物生産の効率化に結びつく可能性があると考えている。
  なお、本研究は、大学院生の戸松創(日本学術振興会特別研究員DC2)、博士研究員の高野順平(日本学術振興会特別研究員PD)が主に行ったものであり、JST戦略的創造研究推進事業の発展研究(代表者 藤原徹)による援助も受けて、行ったものである。

発表雑誌

 Proceedings of National Academy of Science, USA
November 20, 2007 vol. 104 no. 47 pages 18807-18812

注意事項

Onlineでの発表が昨日11月15日に行われた。
印刷物としては11月20日号に掲載される。

問い合わせ先

〒113-8657
東京都文京区弥生1-1-1
東京大学生物生産工学研究センター
植物機能工学研究室
藤原 徹
電話03-5841-2407 FAX 03-5841-2408
atorufu@mail.ecc.u-tokyo.ac.jp

用語解説

(注1)シロイヌナズナ
  アブラナ科の植物でゲノムサイズが小さく(持っている遺伝子の塩基配列の総数が少なく)、容易に栽培出来る等の性質を持つことから、実験によく使われる。植物で最初に全ゲノムが解読された植物である。

(注2)トランスポーター
  生体膜に存在するタンパク質で、脂質膜を透過出来ない物質を透過させる働きを持つ。生物は内的環境を保つために例外なく細胞膜を持っており、外的環境の影響を受けにくくしているが、生存には外部から必要な物質を取り込む必要がある。そのような取り込みを担うのは膜に存在するタンパク質であり、そのようなタンパク質をトランスポーターと呼んでいる。

(注3)モリブデン
  元素番号42番の元素(元素記号はMo)。特殊な鋼材に用いられる。ヒトを含む動物や植物の生存になくてはならない元素である。ニトロゲナーゼや硝酸還元酵素に含まれており、酸化還元反応の電子伝達を担っていると考えられている。

(注4)窒素固定
  地球の大気はおおよそ80%を窒素が占めているが、ほとんどの生物は窒素ガスを代謝することは出来ない。一部の細菌はニトロゲナーゼという酵素を使って窒素ガスを還元しアンモニアを合成することが出来る。このような反応を窒素固定反応と呼ぶ。マメ科の植物の根に着生する根粒菌も窒素固定が出来、地球の窒素循環の重要な一段階を担っている。

(注5)必須元素
  生物が生存するために必要で代替不可能な元素のこと。植物では17種類が知られている。モリブデンもその一つである


 

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