東京大学農学生命科学研究科プレスリリース

2008/10/29

「NIP6;1がホウ素の若い葉への輸送を担っている」

発表者:田中真幸(生物生産工学研究センター・博士研究員)
藤原 徹(生物生産工学研究センター・准教授)

発表概要

植物(シロイヌナズナ(注1))から若い葉へ優先的にホウ素を分配するために重要なホウ酸チャンネルNIP6;1(注2)を発見した。

発表内容

ホウ素は植物の生育に必須な微量元素であり、細胞壁の構造維持に重要な役割を果たしていることが知られています。 私たちは、2002年にシロイヌナズナから生物界で初めてのホウ素トランスポーター(注3)、BOR1を同定しました。BOR1はホウ素の濃度勾配に逆らってホウ素を輸送するホウ素排出型のトランスポーターで、主にホウ素を地上部へ効率的に運ぶための重要な遺伝子でした。さらに、2006年には根からのホウ素の吸収に重要なホウ酸チャンネルNIP5;1を発見しました。NIP5;1はホウ素欠乏条件においてホウ素を土壌から吸収するために必須な遺伝子であることを明らかにしました。

本研究では、これまであまり知られていなかった地上部におけるホウ素の輸送に関与する遺伝子、 NIP6;1 を発見し、その機能解析をおこないました。本研究において、 NIP6;1 は NIP5;1 同様にホウ酸チャンネルであることが明らにし、また NIP6;1 は主に地上部におけるホウ素の輸送や分配に重要な役割を果たしていることを明らかにしました。 NIP6;1 遺伝子破壊株をホウ素欠乏条件で栽培したところ、葉の一部、主に若い葉の生育が異常になることが示されました。 また、 NIP6;1 は主に地上部の節、特に 篩管やその周りの細胞で発現していることがわかりました。 さらにアフリカツメガエルの卵母細胞の発現系を用いてその輸送活性を調べたところ、 NIP6;1 は NIP5;1 と同様にホウ素輸送活性が認められましたが、 NIP5;1 とは異なり、水の輸送活性は NIP5;1 よりも低いことが認められました。これらのことから、 NIP6;1 は NIP5;1 同様ホウ酸チャンネルであり、ホウ素欠乏条件での植物の特に若い葉や花茎の正常な生育に必須であることを示しています。

今回発見されたホウ酸チャネルは、ホウ素を効率的に若い葉へ分配するために導管から 篩管へホウ素を移し、篩管からホウ素を若い葉へ輸送するという新しいホウ素輸送の可能性を示唆しました。

添付資料

 

 
 ホウ素欠乏条件で育てた時の野生型株(左)とNIP6;1遺伝子破壊株(右)。若い葉の成長が抑制されている(矢印)

 


 NIP6;1のプロモーター制御下でNIP6;1遺伝子にGFP遺伝子を連結した形質転換植物の節のGFP蛍光を観察したもの。 維管束部の篩管周辺でGFP蛍光(緑色)がみられる。

発表雑誌

The Plant Cell,
 Mayuki Tanaka et al., “NIP6;1 Is a Boric Acid Channel for Preferential Transport of Boron to Growing Shoot Tissues in Arabidopsis thaliana
 October 2008 Issue
 Published online on Oct 24, 2008

用語解説

(注 1 ) シロイヌナズナ
  ゲノムサイズが小さく全ゲノムが解読されているのでモデル植物とし広く実験に用いられているアブラナ科の植物。

( 注 2 ) チャンネル(輸送体)
  膜を横切って物質輸送を行うために存在する膜タンパク質。分子またはイオンを通過させるための孔(穴)を形成する。通常イオンや分子の濃度勾配に従い輸送させる。

( 注 3 ) トランスポーター(輸送体)
  膜を横切って物質輸送を行うために存在する膜タンパク質。 有機物や無機物イオンを通過させるために、構造変化を起すことにより物質を膜から通過させる。通常濃度勾配に逆らい物質を輸送させる。

問い合わせ先

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 東京大学生物生産工学研究センター
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 藤原 徹
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