東京大学農学生命科学研究科プレスリリース

2007/12/28

クルクミン(ウコンの黄色色素)の生合成とその応用

発表者: 勝山 陽平  応用生命工学専攻(博士1年)
松沢 未来  応用生命工学専攻(修士1年)
鮒 信学  応用生命工学専攻(助教)
堀之内 末治  応用生命工学専攻(教授)

発表概要

 カレーの黄色色素の本体であるクルクミンは、ウコンより単離された化合物であり、その生理活性の強さのため、古くから漢方としても重宝されてきた。その生合成経路はこれまで不明であったが、イネのゲノム情報から見出したIII型ポリケタイド合成酵素の一つ(「クルクミノイド合成酵素(curcuminoid synthase, CUS)」と命名)が、チロシンから出発してスターター基質のクマロイル-CoA を経由するクルクミノイド生合成経路の鍵酵素であることを明らかにした(参考資料の図参照)。さらに、CUS の極めてユニークな反応機構も解明した。クルクミノイドを生産しない稲のゲノムにCUSが存在することは大変興味深い。また、本酵素は我々が開発している微生物による植物ポリケタイドの発酵生産システムの一部品となり、微生物によるクルクミンの発酵生産が可能となった。

発表内容

 カレーの黄色色素であるクルクミノイドはウコンより単離されるポリフェノールであり、肝機能の活性化や抗ガン活性など様々な生理活性を持つ化合物である。テレビのコマーシャルでも盛んに耳にする。我々は、III型ポリケタイド合成酵素をイネのゲノム情報から探索し、それら酵素の機能解析を行った。その結果、クルクミノイド合成酵素(curcuminoid synthase, CUS)と名付けた酵素が、クルクミノイド合成を担う鍵酵素であることが明らかになった。クルクミノイドはウコンやその近縁の種に特有な天然化合物であり、イネはクルクミノイドを生産しないと考えられている。そのため、イネのゲノム情報からのCUSの発見は大変驚くべきものである。
  CUSの触媒反応は、次のような点で非常にユニークであり、かつ興味深い。通常のIII型ポリケタイド合成酵素は、1分子のスターター基質に対し複数の伸長鎖基質を縮合する。これに対しクルクミノイド合成酵素は、2分子のスターター基質と1分子の伸長鎖基質を縮合する。つまり、CUSはポリケタイドの生合成におけるhead-to-tailの縮合則を破る初めてのIII型ポリケタイド合成酵素である。
  また、CUSによるクルクミノイドの合成は次のような反応経路で進行することが明らかになった(図参照)。CUSは、チロシンから生合成されるスターター基質に伸長鎖基質を1分子縮合し、ジケタイド中間体を合成し、このジケタイド中間体を一旦酵素外に放出する。放出されたジケタイド中間体がスターター基質をくわえこんだ別のCUS 酵素と結合し、加水分解されβ-ケト酸を生成する。このβ-ケト酸がCUSの第2の伸長鎖基質となり、スターター基質と縮合することでクルクミノイドが合成される。CUSの発見により、これまでウコンからの抽出によってのみ生産可能であったクルクミノイドを、我々がこれまで開発してきた微生物による非天然型を含む植物ポリケタイド発酵生産系[勝山、鮒、宮久、堀之内:Synthesis of unnatural flavonoids and stilbenes by exploiting the plant biosynthetic pathway in Escherichia coli. Chemistry & Biology 14, 613-621 (2007)] に本酵素遺伝子をカセット挿入するだけでクルクミンを含めた非天然型クルクミノイド化合物群の微生物による発酵生産が可能になった。

発表雑誌

The Journal of Biological Chemistry, vol. 282, no. 52, pp. 37702-37709, December, 28, 2007. In vitro synthesis of curcuminoids by type III polyketide synthase from Oryza sativa.

問い合わせ先

堀之内末治

用語解説

III型ポリケタイド合成酵素
  ポリケタイドの生合成酵素の一種。植物ではフラボノイドやレスベラトロール(ワインのポリフェノール)のような有用な生理活性を持つ化合物の生合成に関わることが多いため、近年、大変注目されている。

添付資料

上:クルクミノイド合成酵素の触媒する反応。2分子のスターター基質と1分子の伸長鎖基質からクルクミノイドを合成する。
  下:代表的なIII型ポリケタイド合成酵素であるカルコン合成酵素の触媒する反応。スターター基質1分子と伸長鎖基質3分子を縮合することでカルコンを合成する。

 

              


 

東京大学大学院農学生命科学研究科
〒113−8657 東京都文京区弥生1−1−1 www-admin@www.a.u-tokyo.ac.jp
Copyright © 1996- Graduate School of Agricultural and Life Sciences, The University of Tokyo