2009/1/23 |
|
発表者:神谷 岳洋 (生物生産工学研究センター・日本学術振興会特別研究員SPD)
植物(シロイヌナズナ)を用いて、生物にとって有害な元素であるヒ素(亜ヒ酸)の輸送と耐性に関与する遺伝子(NIP1;1)を同定した。
ヒ素は有毒であり、植物にとって必須元素ではありません。しかし、植物はヒ素を吸収してしまう事が知られています。そこで、本研究ではヒ素の環境中における主な形態である亜ヒ酸に注目し、その膜輸送体(注1)を同定することを目的としました。
亜ヒ酸輸送体が機能を失うと、亜ヒ酸が植物体内に取り込まれないために亜ヒ酸耐性になるであろうと考えました。そこで、変異原処理(注2)したシロイヌナズナの種子を用いて、亜ヒ酸耐性株のスクリーニングを行ったところ、3株の耐性株を得る事ができました。いずれの株もアクアポリン(注3)の一つであるNIP1;1遺伝子に変異が見つかり、NIP1;1が機能を失う事により植物が耐性になっていることが分かりました。NIP1;1は亜ヒ酸輸送活性があり、植物の根の細胞膜で多く発現しています。このことは、NIP1;1が土壌から植物体内へ亜ヒ酸を取り込む輸送体であることを示しています。
ヒ素による環境汚染は、バングラディッシュやインドの西ベンガル地方で激しい事が報告されています。この地域では飲料水などによる直接的な摂取に加え、汚染地域で栽培された作物からの間接摂取による健康被害も危惧されています。また、ヒ素は作物の生育を阻害し収量の低下を招くことも報告されています。本研究の成果は、ヒ素を含む土壌でも正常に生育する作物や、汚染土壌で栽培してもヒ素を含まないような作物の作出への応用が期待されます。
The Journal of Biological Chemistry Vol. 284, pp. 2114-2120, January 23, 2009. NIP1;1, an Aquaporin Homolog, Determines the Arsenite Sensitivity of Arabidopsis thaliana.
なし
(注1)膜輸送体
生物の細胞は脂質の膜で覆われている。細胞内に物質を取り込むためには脂質の膜を通過する必要がある。膜輸送体はこの通過をスムーズに行うために必要なタンパク質であり、脂質膜に埋まった状態で存在する。生命維持に必要な物質を輸送することが主な機能だが、本来の基質だけではなく細胞には全く必要ない物質を輸送することもある。
(注2)変異原処理
薬剤によりゲノムのランダムな位置に変異(塩基置換)を引き起こす処理。多くの場合、タンパク質の機能を欠損させるために用いられる。
(注3)アクアポリン
元々は水を輸送するタンパク質として報告されたが、現在では水だけではなく、グリセロールやホウ素、ケイ素などの物質を輸送することが報告されている。
東京大学生物生産工学研究センター
植物機能工学研究室
藤原 徹
atorufu@mail.ecc.u-tokyo.ac.jp
http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/ppk/home/Fujiwara.html