東京大学 農学生命科学研究科 お知らせ

東京大学秩父演習林がサントリーと研究・整備協定を締結

国立大学法人東京大学大学院農学生命科学研究科は、サントリーホールディングス株式会社と、埼玉県秩父市に所在する附属演習林秩父演習林を対象として研究助成および森林整備に関する協定を締結いたします。

本協定は、森林が抱える問題の解決に向けて幅広く継続的な研究・教育を進めてきた東京大学と、水源涵養活動を工場水源源流地域で積極的に推進してきたサントリーが、両者の知見を活かし、より高い水源涵養機能を持続的に発揮できる森づくりを協働して実施していくものです。

協定は、附属演習林秩父演習林の全域(5,812ha)を対象とし、長期的な観点にたった研究協定と、同演習林栃本地区の一部(1,918ha)を対象とする森林整備活動を協働して進めるための森林整備協定からなります。

両者は、対象地区を水源涵養林としての高い機能を持った森林、生物多様性に富んだ森林、洪水・土砂災害等に強い森林、CO2吸収能力の高い森林、豊かな自然と触れ合える森林に誘導することを目標に活動を実施します。具体的には、奥地にあり手入れの行き届かない造林地と原生林へのアクセス開設、不成績造林地の天然林への誘導、植生回復、シカの移動、植生と水文・水質の関係、樹木の機能特性、材の搬出および活用、森林整備体験・環境教育等の研究および森林整備活動を展開していく予定です。

両者は、このような産学連携型の森林整備および研究活動が今後さらに拡がりをもって展開されることを期待し、これらの活動の成果を積極的に公開し情報発信していく予定です。

▼本件に関するお問い合わせは、下記までお願いいたします。
東京大学 大学院農学生命科学研究科 附属演習林 秩父演習林
教授 鎌田 直人
電話: 090-8084-8538
メール: kamatan@uf.a.u-tokyo.ac.jp
▼サントリーホールディングス株式会社のプレスリリース
http://www.suntory.co.jp/news/2011/11117.html
○研究協定および森林整備協定の概要
▼対象地区: (研究協定)秩父演習林全域5,812ha
(森林整備協定)秩父演習林栃本団地入川流域1,918ha
秩父演習林拡大図
秩父演習林位置図
▼整備内容: 水源涵養と生物多様性に寄与する森林整備、地形・植生調査の実施(航空レーザー等)、シカの行動解析、植生保護柵の設置、作業道の整備、不成績造林地の天然林への誘導試験、歩道整備など
▼研究テーマ: 植物機能特性、林道、水質・地下水、シカの移動とその季節性、生物多様性モニタリング、航空機レーザー測量データを利用した植生解析、シカ柵設置による植生回復に関する研究、GISを使ったランドスケープレベルでの生物害-植生-水質の関係の総合的な解析、フェノロジー研究、伝統的な森林利用・山村社会とアーカイブ作成、人工林の成長の解析、シカの下層植生の食害による土壌流亡と倒木発生、不成績造林地の天然林への誘導など
▼協定期間: 平成23年度から27年度まで5年間(延長協議可)
(参考)附属演習林および秩父演習林について

東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林は、北海道から愛知県まで7つの地方演習林を有し、総面積は約32,000haと東京大学の総面積の99%を占めています。秩父演習林は、埼玉県秩父市の荒川源流域に位置しており、大正5年に設立され、面積は5,812haと東京大学の演習林の中では北海道演習林に次ぐ面積です。

秩父演習林は、関東山地に位置しており、全域が秩父多摩甲斐国立公園に指定されています。特徴として、広い天然林を有していることが挙げられ、天然林率は、86.8%になります。天然林のうち、かつて薪炭林として利用されていた二次林が約6割、いわゆる原生林が約4割です。標高差が1,450mあり,主に山地帯(冷温帯)と亜高山帯(亜寒帯)の森林からなり、現在までに確認された維管束植物は930種にのぼります。

秩父演習林は、東大の演習林のひとつとして、教育・研究に利用される一方で、登山道として一般の利用に供するほかにも、水源かん養やCO2の吸収など公益的な機能をとおして社会に貢献してきました。近年は、国の財政悪化から人員・予算削減が進む中、埼玉県や秩父市と協定を結び、人工林の公益的機能の強化のための森林整備を進めてきております。

一方で、全国的にみとめられるように、秩父演習林を含む関東山地一帯でも、増加したシカの食害による、樹木の枯死、下層植生の裸地化とそれに伴う表土の流亡が進行しております。表土が洗い流されることにより、根が露出して支持力が低下し、台風等による倒木が増加しています。近くの丹沢山地では、すでに森林衰退が深刻な状態にまで進行しております。さらには、カシノナガキクイムシが運ぶ病気によるナラ枯れが、関東地方にも発生するようになりました。ナラ枯れも、遠くない将来には秩父地方に侵入することが予測されます。これまでは、人手を加えないことが天然林の特徴でしたが、これからは天然林も人手を加えて適切に管理しないと、森林として維持することが難しい状況にあります。