難波成任教授

   

大学院農学生命科学研究科生産・環境生物学専攻の難波成任教授が、植物病理学の分野で長年にわたり教育研究に努め、当分野の発展に貢献された功績により、紫綬褒章を受章されました。難波教授の最大の業績は、ファイトプラズマの統合生物学的研究とその臨床展開にあります。ファイトプラズマはもともと「マイコプラズマ様微生物(MLO)」と称され、植物に「天狗巣・葉化・萎黄叢生・枯死」などの症状を引き起こす「動物・人のマイコプラズマ」に似た昆虫媒介性病原体であり、難波教授の研究室で1967年に発見・命名されました。ファイトプラズマは、温暖化に伴う媒介昆虫の生息域拡大により、世界の農業生産に深刻な打撃を与えており、その実体解明は喫緊の課題でした。

難波教授は、この微生物に初めて分子のメスを入れ、遺伝子をPCR増幅・配列解析し、系統分類する手法を世界で初めて植物病原体に導入されました。MLOが系統的にマイコプラズマと異なることを発見し、「ファイトプラズマ」と改称されました。さらに、マイコプラズマではトリプトファンに翻訳されるUGAコドンが、ファイトプラズマでは真核生物や一般細菌と同じ終止コドンであることを発見され、植物や大腸菌などにおける遺伝子発現系が可能となり、ファイトプラズマ研究は飛躍的に発展しました。また、世界に先駆け全ゲノム解読に成功し、多くの必須代謝系やエネルギー合成系をも進化の過程で失った、生命の概念を覆す「究極の怠け者細菌」であることを示されました。さらに、ゲノムのマイクロアレイを世界で初めて作製し、ファイトプラズマと宿主の遺伝子発現応答を解析されました。また、ファイトプラズマ表面のタンパク質と、媒介昆虫腸管壁タンパク質の結合の可否が、特定の昆虫による媒介能を決定していることを、動植物病原体を通じ初めて発見されました。次いで、天狗巣症状の原因遺伝子「TENGU」を発見し、その発病に至るまでの働きを解明されました。臨床現場で役立つ診断キットの開発も世界で初めてのものです。

さらに、植物医科学講座や植物病院を本学に開設し、植物医師養成に取り組まれているほか、海外からの侵入病害をいち早く病院で発見し、キットを開発して国と根絶対策に取り組まれるなど、社会的貢献の数々は高く評価されています。

学界においては、日本植物病理学会長、日本マイコプラズマ学会副理事長、国際マイコプラズマ学会常務理事などを歴任され、国際研究チームの代表も長く務められ、この分野における世界のトップリーダーと目されています。また、日本植物病理学会賞、日本マイコプラズマ学会北本賞、国際マイコプラズマ学会エミー・クラインバーガー・ノーベル賞など、数多くの賞を受賞されておられます。この度の受章をお祝い申し上げますと共に、今後のご健勝と益々のご活躍をお祈りいたします。