当研究科応用生命化学専攻 東原 和成 教授が、第32回井上学術賞(Inoue Prize for Science)を受賞いたしました。
本賞は、自然科学の基礎的研究で特に顕著な業績を挙げた50歳未満の研究者に対して授与されるものです。農学からの受賞は、実に26年振りとなります。
◆受賞対象となった研究業績
「匂いやフェロモンを感知する嗅覚に関する研究」
◆受賞理由
五感のひとつである嗅覚のメカニズムは、1991 年のBuck とAxel による多数の嗅覚受容体遺伝子候補の発見により著しくその解明が進んだ。東原氏は、90 年代後半に、この嗅覚受容体が本当に匂いを認識するという実証実験に世界に先駆けて成功し、2004 年のBuckとAxel のノーベル賞を後押しした。その後、嗅覚受容体の匂い認識メカニズムの基礎学術的知見を次々と報告し、最近では産業界において有用なムスク香の受容体を発見して特許を通して社会貢献もしている。また、候補者は匂いだけでなくフェロモンにも研究領域を広げ、1950 年代のカイコのフェロモンの発見以来、長い間不明であった昆虫の性フェロモン受容体を世界で初めて発見した。そして、昆虫の匂いやフェロモンの受容体は、哺乳類のG タンパク質共役型とは違い、7回膜貫通型であるのにも関わらずリガンド作動性のチャネル複合体であるという驚くべき事実を発表した。また、哺乳動物のフェロモンの探索研究にも力をいれ、マウスの涙から性行動を制御するペプチド性のフェロモンを発見するなど、オリジナルな研究成果も発表している。この成果は、陸棲の生物が使うフェロモンは空気中を飛ぶ揮発性のものだけあるという定説を覆すものであった。このように、匂いやフェロモンの分子レベルから受容体レベル、そして行動レベルまで、化学と生物の境界領域の技術アプローチを使って、多角的
な視点からオリジナルな嗅覚研究を推進してきている。また、東原氏は、専門雑誌のみならず、一般雑誌の特集などを通して、そして一般市民向けの講演を多くおこなうなど、嗅覚の啓蒙活動にも積極的に取り込んできている。現在は、ERATO 東原化学感覚プロジ
ェクト研究総括として、領域の活性化に努めると同時に、ヒトの嗅覚研究にも挑戦している。この様に、東原氏は嗅覚研究に大きな功績を挙げ、世界的なリーダーとして活躍している。
井上学術賞(公益財団法人井上科学振興財団)のホームページ
http://www.inoue-zaidan.or.jp/f-01.html