東京大学 大学院 農学生命科学研究科・農学部 広報誌『弥生』Vol.75 (Fall 2022)
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き、そこから自由になる努力をするべきですし、そうして欲しいと思います。象について事前にお伺いしました。「結構、細かい事まで眼を配られており、人に押し付けるようなことはせず、周りの人に自由な発想で考えてもらって皆さんの話し合いの結果を体現するという主義」「性格も穏やかで、トラブルも好まず、下の人たちはかなり自由に動けて,育ちやすい環境ができている。」と、お二人とも、事前に打ち合わせした訳でもないのに本当に似通った印象を仰っていて、先生の平和的なお人柄と、慕われている様子がうかがえました。―ありがとうございます。東大に入学してからは、いかがでしたか? 研究者を志された、きっかけとなる出来事はあったのでしょうか? 駒場の前期教養の講義が、高校の延長のようであったのと、進学先選択も点数順という、大学入試を彷彿させる様な仕組みということもあって、がっかりしてしまった記憶はあります。その仕組みを全面否定するつもりは無いですが、変える必要があるのは明らかですね。農学部を選択したのは、授業で生物に惹かれたのと、実学−社会に役立てる事をする−という点に興味を覚えたからです。研究者という道は全く頭になかったのですが、自分の裁量で、好きな分野の研究を進められる、良い意味での自由さが決め手となりました。しかし、現実には研究を進めるには研究費が必要であり、競争的資金を獲得し、その資金で効率的に成果を出すことが求められています。資金獲得が半ば目的化して、資金繰りは大学教員の重要な仕事になっているのです。それは確かに予想していませんでしたが、自分には合っていると思い、この仕事を選びました。また、崇高な目的なしに進んできてしまったため、社会の役に立ちたいという思想に行き着いたのは、遅いかも知れませんが、実はごく最近です。―正直な、お気持ちが知れて良かったです。 次は、先生の性格について少し踏み込んでお聞きできればと思います。今回は同僚の先生、お二人に、堤先生の印Fall202211発行日 令和4年9月30日 企画編集:東京大学 大学院農学生命科学研究科広報室(髙橋伸一郎・■口洋平・永田宏次・福田良一・関澤信一・秋山拓也・濱本昌一郎・井出留美・白石英司・村上淳一・岸俊輔)〒113-8657 東京都文京区弥生1-1-1 TEL:03-5841-8179 FAX:03-5841-5028 E-mail:koho.a@gs.mail.u-tokyo.ac.jp  デザイン:梅田敏典デザイン事務所 表紙撮影:中島剛 撮影場所:東京大学北海道演習林 取材編集:米谷紳之介編集後記 今回のテーマは「共生する」です。2020年から始まった新型コロナウイルスの蔓延や、今年の2月から続いているウクライナへの軍事侵攻、それに伴うエネルギー・食糧危機や物価高など、わたしたちを取り巻く世界情勢は目まぐるしく変化しています。そのような中で、農学部の原点ともいうべき、「地球上のあらゆる生物との調和」をもう一度見直すきっかけとして、今回のテーマを選びました。[Yayoi Highlight]では勝間先生に昆虫の共生社会を、[農学最前線]では練先生に樹木と外生菌根菌との共生を、岡田茂先生に微細緑藻によるバイオ燃料生産についてご紹介頂きました。[ON THE from Graduate School of Agricultural and Life Sciences  勝手な偏見ですが、この授業を受けるまで、大学教授というのは雲の上の存在というか、とても真面目で近寄り難いイメージを持っていました。しかし、多くの先生方のライフストーリーをお聞きして、皆さんとてもフランクで、親しみを覚えた部分も多く存在し、捉え方が変わり、自分の将来を考える上でたくさんの重要な事柄を学ばせていただきました。本当にありがとうございました。Interview05 堤先生インタビューK.S農学部長ってどんな人?? 記念すべき最後は、農学部長・農学生命科学研究科長の堤伸浩教授です。 今回のインタビュー記事では、特に先生の人となりに焦点を当ててお話を伺い、色々と深掘りしていきたいと思います。―故郷は長崎県、佐世保と聞いています。幼少期から、学生時代までのお話をお聞かせください。 比較的中心地に住んでいて活発な子供でした。今は植物に関連する研究をしていますが、“植物マニアな少年”という訳では無かったですね。生物が楽しいと目覚めたのは大学の頃なのですが、動物・昆虫を選ばず、植物の道に進んだのは、前者が苦手だったという理由からです。ヤンチャな幼少期で、それは高校、大学に入っても続きましたが、さまざまな環境の人と触れ合い、感動を伴った経験をすることは学生時代に留まらず、社会人になっても生涯を通じて、大切だと思っています。―ご自分では、自身の性格をどの様に捉えていますか? 知り慣れた人と、一緒にいて仲良くするのは好きな一方、新しい人と会うのは緊張しますし、別れも嫌いです。卒業式などは嫌すぎて、出席したくないと思ってしまいます。また、簡単に忘れることが出来て、そのおかげで負の評価や失敗に長期間囚われることは少ないように思います。楽天的とは少し違うかもしれません。ですが、悲しいことに忘れてはならないことも忘れがちです。後から気づけば良いのですが,一生気づかずに済ませていることも多いのではないかと心配です。―最後に、今の問題点や、若手研究者に望むこと、メッセージがあればお願いします。 深い探求はもちろん大事だが、広く他の分野の人と関わるという事を大事にして欲しいです。例えば、最近の話として、イネ科の植物を石炭の代替燃料として発電に利用することを紹介します。当初は植物の構成成分をエネルギー密度の高いものにすること。収量を大きくすることを目標として品種改良を進めるべきであると思っていました。ところが、電力会社の人たちと話してみると、それらの性質はもちろん重要であるが、炉を損傷する金属の含有量、粉砕した場合の粒子の大きさと均一性、炉内での燃焼の広がり方、燃焼後の灰の成分と量などの性質が、植物の収量やエネルギー密度と同じくらい重要な要素であることが判明しました。それまで食料としての品種改良を考えてきた者にとっては、まさにメカラウロコでした。特定分野の知識や経験に基づいた独りよがりな思い込みでは、上手くいかなかっただろうという例です。 また、農学全般としてフィールド研究は多く、出かけることに対するハードルも低いですが、若い人はフィールドへ出かける頻度が少ない印象があります。現場ありきで研究があり、現場には課題が積み上がっていることが常なため、特に若い人には現場に行ってリアルを見て欲しいです。 好きな言葉は自由。嫌いな言葉は束縛。束縛は知らないうちに自分に巻きついているものです。見えない束縛に気づ最後に簡単なまとめを。 長崎、佐世保で幼少期を過ごし、やんちゃな一面を持つ堤教授は、多様な環境の人に触れた中高を経て、東大へ入学。大学入学までほぼ未習だった生物に、前期教養の授業きっかけで面白さに目覚め、社会に役立つ実学である点に惹かれて農学部への進学を志望。動物・昆虫は苦手…と消去法で、植物を扱う専修を選ぶも、研究者の良い意味で自由な部分に惹かれ、将来の進路を選択。また、周囲からは平和主義、穏やかな性格、細かく気配りができるなど、とても慕われており、実際のお人柄は慣れた人と接するのが好きで明るく、負の評価や失敗に長期間囚われる事がないというものでした。 インタビューからは正直さやフランクさが伺え、筆者も親しみを覚えました。また、先生は研究室の皆から好かれており、自身も研究に楽しんで取り組んでいる様子が感じ取れて、こんな方のもとで研究したり仕事したりできたら、素敵だろうなと感じさせてくれる、そんな人が農学部長の堤伸浩教授です。 今回はインタビューにご協力いただき、本当にありがとうございました。インタビューでもお話しした通り、この年になっても人見知りが治りません。インタビューには高橋先生が同席していただいたので、たいへん助かりました。初めての時は、愛想がないと感じられるかもしれませんが、決してそうではありませんので、気軽に声をかけていただきたいと思います。農学生命科学研究科長・農学部長堤 伸浩CAMPUS]では生圏システム学専攻の大学院生の皆さんを、[IN THE SOCIETY]ではアストロスケールの岡田光信さんによる宇宙ゴミ除去ビジネスを紹介させて頂きました。また、[Yayoi Café]では、昨年から新たな取組みとして始めた全学自由研究ゼミナールAgric. Scientists Studio Interviewの受講生による教員紹介記事を特集しました。[Epiphaniesその瞬間]では、吉田先生に「私の背中を押してくれたひと言」と題して執筆頂きました。私たち人類も地球上に共生する生き物の一つとして互いに協力し、明るい未来を創っていく必要があると改めて感じました。     広報室員 樋口洋平東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部Webサイトwww.a.u-tokyo.ac.jp2975

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