東京大学 大学院 農学生命科学研究科・農学部 広報誌『弥生』Vol.75 (Fall 2022)
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勝■■間■進■■■東京大学大学院農学生命科学研究科長・農学部長堤 伸浩 地球上のすべての生物は細菌、古細菌、真核生物にグループ分けされる。私たちヒトは、数十兆個の細胞核を有する細胞で構成されており、真核生物の一員である。 真核生物は、私たちの祖先である古細菌が好気呼吸をする細菌を細胞内に共生させ、ミトコンドリアを獲得することで成立した。酸素呼吸によってエネルギーを獲得するようになった真核生物のある種が、さらに光合成細菌を細胞内に共生させることで、太陽光のエネルギーを利用して空気中の二酸化炭素から有機物を合成する生物が生まれた。葉緑体を持つ植物である。今から10億年〜20億年前の出来事である。これらの進化的イベントは、生物によってもたらされた地球環境の変化が原動力となったと考えられている。 生物学が対象とする共生は、双方が利益を得る相利共生ばかりではない。片側が搾取する寄生や、双方が損をする競争なども共生として捉えられる。競争も進化の原動力となる。「鏡の国のアリス」に登場する「赤の女王」のことば『その場にとどまるためには、全力で走り続けなければならない。』が競争と進化の関係を例えているので、「赤の女王仮説」と呼ばれている。すべての生物種と地球環境は相互に影響を与えながら、全力で走り続けて変化し続けてきた。しかしながら、これらはすべて進化的スケールの時間軸で起こったことである。私たち人間の活動が、この100年ほどで他の生物種や地球環境に与えている影響は、「赤の女王」が期待しているものではない。生産・環境生物学専攻昆虫遺伝研究室教授Yayoi HighlightFrom the Dean’s Office2 昆虫の病気や病原体を研究する学問領域を昆虫病理学といいます。農学部3年生の「昆虫病理学」の講義で出会って以来30年間、昆虫とその病原体の神秘に魅せられています。細胞から生態系に至るまで、いろいろなレベルでの共生社会を垣間見ることができます。身近な共生から人間活動を考える共生する昆虫に垣間見る共生社

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