東京大学 大学院 農学生命科学研究科・農学部 広報誌『弥生』Vol.75 (Fall 2022)
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練■■ 春■■■蘭■■Frontiers 14  なぜ樹木は大きく成長できるのでしょうか。また、なぜ森の中にはたくさんのキノコが発生するのでしょうか。実は、森の中で見られる多くのキノコは樹木の根に共生しており、土壌中に広げた菌糸から養水分を吸収して樹木に渡しているのです(図1)。樹木は、外生菌根菌と総称されるこれらのキノコと共生しなければ成長することができず、生存することすら困難です。 私たちの研究室では、鉱山性荒廃地や乾燥地、塩類集積地などの植生回復に外生菌根菌が利用できないかと考えて、外生菌根菌の重金属耐性や耐塩性に対するメカニズムを明らかにしてきました。これまでに、鉱山跡地の銅鉱滓上でのマツ実生の生残と成長が外生菌根菌の共生によって促進され、鉱山跡地の森林回復において外生菌根菌の接種が有効であることが示されました。現在は、ゲノム解析により外生菌根菌のストレス環境適応についての研究を進めています。 一方、高価な食用キノコとして知られるマツタケやトリュフも外生菌根菌です。外生菌根菌は樹木から光合成産物を得なければ成長することができず、キノコを形成することもできません。そのため、ほとんどの外生菌根菌のキノコは人工栽培に成功していません。私たちは、ゲノムワイド関連解析やゲノム編集などの新たな技術を用いて菌根やキノコの形成を制御する遺伝子とそれらの機能を明らかにし、里山での食用菌根菌キノコの増産・栽培技術を開発したいと考えています(図2)。外生菌根菌類(カビやキノコ)の菌糸が植物の根に侵入して形成される構造です。根に侵入した菌糸は細胞壁の外(細胞間隙)に留まっています。陸上植物の約2%は外生菌根を形成します。日本の里山林を構成するマツ科やブナ科などの樹木は、外生菌根を形成します。 ゲノムワイド関連解析(genome-wide association study、GWAS)多くの個体を用いて、ゲノム全体にわたるDNA多型データを対象に、ある形質に関連するDNA領域または遺伝子があるかどうかを調べる方法です。現在、よく行われているのは一塩基多型(SNP)と形質との関連です。附属アジア生物資源環境研究センター森林共生生物学研究室教授On The Frontiers森の地面の下では、2億年前から樹木の根にキノコが共生しています。この共生関係の仕組みを明らかにし、荒廃地の植生回復や里山でのキノコ栽培に応用することを目指しています。図1. 樹木、外生菌根菌、キノコ共生の模式図図2. 樹木と外生菌根菌との共生に関する研究の概要図教えて!Q&A農学最前線樹木、外生菌根菌、そしてキノコ

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