東京大学 大学院 農学生命科学研究科・農学部 広報誌『弥生』Vol.75 (Fall 2022)
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6Why have you chosen Department of Ecosystem Studies?農学を志す人がもっと増えてほしいInterviewsあなたはいま、何をしていますか?農学はいま、持続可能な社会の実現に欠かせない実践学となっています。ここではインタビューを通じて、農学生命科学研究科に学ぶ現役学生と、弥生キャンパスを巣立った先輩たちのいまをご紹介していきます。私は生物の多様性についての研究をしていますが、この道に進んだのは大学時代のオーストラリア留学がきっかけです。ボランティアとして現地の手つかずの大自然に分け入り、さまざまな生物の調査をしているうちに、生物多様性への関心が一気に高まりました。現在、取り組んでいるのはソバの花の受粉をする虫の研究。ソバは虫媒による他家受粉の植物です。花が咲き始めると、ミツバチやハナムグリなどの甲虫、さらにハエやアリなど、さまざまな虫がやってきて受粉をします。ここでも生物の多様性が重要なのです。たとえば、晴れて気温が高いときに活動する虫もいれば、悪天候のときに活動する虫もいます。こうした虫たちの手助けによって、ソバは実をつけられます。まだ自分の将来については漠然としか考えていませんが、生物の多様性の大切さを伝えられる仕事に就ければと思います。今後、農学はますます重要性が増すはずです。一次産業の未来のためにも、農学を志す人がもっと増えてほしいですね。両親の影響もあり、子どもの頃から海や山の自然に親しんできました。環境問題への興味も強く、学部を選ぶときは農学部以外に、工学部や医学部も選択肢でした。住環境や都市工学を学ぶなら工学部、衛生環境を学ぶなら医学部だと考えたからです。決め手は「好きなことをすべきだ」という友人のひと言。実は、私は街を散歩し、新しい景色を見るのが好きで、散歩の途中に公園や庭などの緑地を見つけると嬉しくなります。そんな私にとって、人と自然のつながりを考え、緑地の保全や創出の研究を行う緑地創成学研究室はぴったりでした。現在、私が行っているのは農地が自然や人にどのような影響を与えるかをマクロな視点からとらえ、自治体の政策のあり方を考察することです。研究の大前提にあるのは人の幸福。人が生きていくために自然がどのように役立つのかについて研究をしたいと思っています。将来的には緑地に対する企業の取り組みや政策を評価するコンサルティングのような仕事に就けたらと思います。「森圏管理学研究室」の「森圏管理学」というのは造語です。水圏や大気圏などの言葉からも類推できると思いますが、森林やそこに生息する生物の多様性をどのように維持していくかについて考え、行動する学問です。森は私が子どもの頃から昆虫採集や植物観察などをしてきた場所でした。高校時代も近くの森で過ごすことが多く、その頃から森林の成り立ちに興味を抱いていました。現在の研究もその延長線上にあると言えるかもしれません。私の主な研究対象は森林に生育するつる植物。この2年で、北海道から沖縄まで20地点以上で種の分布状況など森林の生態系を調査しましたが、立木に比べ、つる植物は解明されていないことが多いのです。たとえば、ヨーロッパなどの一部の温帯林でつる植物が増えていますが、原因はわかっていません。気候変動によるものか、人間の活動が原因なのか。つる植物の分布やその変化を明らかにすることは、豊かな森林の持続的維持にも寄与できるはずです。詳しくは、東京大学 大学院農学生命科学研究科 生圏システム学専攻http://www.es.a.u-tokyo.ac.jp生物多様性科学研究室 2022年博士課程進学緑地創成学研究室 2022年修士課程進学森圏管理学研究室 2020年博士課程進学ソバには虫の多様性が欠かせない人の幸福を大前提に緑地の修復・保全・創成をめざす森林の持続的維持に寄与するつる植物の生態を解明したい夏目 佳枝 Kae Natsume橋元 菜摘 Natsumi Hashimoto日下部 玄 Gen Kusakabeなぜ生圏システム学専攻を選んだの?

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