東京大学 大学院 農学生命科学研究科・農学部 広報誌『弥生』Vol.75 (Fall 2022)
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7PROFILE岡田 光信 Mitsunobu Okada兵庫県出身。東京大学農学部卒業。米国パデュー大学クラナート MBA修了。スペースデブリの除去を含む軌道上サービスに世界で唯一専業として取り組む民間企業アストロスケールホールディングスの創業者兼CEO。2013年の創業以来、5ヶ国でのグローバル展開、300名以上のチーム、累計総額334億円の資金調達を達成するまでに成長。宇宙業界における有識者として、国際宇宙航行連盟(IAF)副会長、The Space Generation Advisory Council (SGAC)アドバイザリーボード、英国王立航空協会フェロー(FRAeS)等の職務を兼務。MBA時代の岡田氏毛利衛さんからの手書きのメッセージデブリ除去技術実証衛星「ELSA-d」のイメージ図卒業生人名録 11農学から宇宙ビジネスへ。その経緯を教えてください。環境問題への関心から農学部に進みましたが、大学4年の冬、阪神大震災で実家を失い、親族を亡くしました。仕送りしてもらうことが困難になったので、研究の道はあきらめ、独学で法律を学んで大蔵省(現財務省)に入省。さらに留学してМBAを取得し、コンサルティング会社に入社しました。その後、IT関連の会社を2社経営しましたが、40代を前に、自分が本当にすべきことは何なのかと考え始めたのです。頭をよぎったのは、15歳でNASAのスペースキャンプに参加したこと。当時、毛利衛さんから「宇宙は君達の活躍するところ」という手書きのメッセージをいただきました。本棚に問あったそのメッセージを見た瞬われ間、これだと直感しました。るのは宇宙ゴミの除去に着目されるわけですが。手法より目的いくつもの宇宙の学会に出向きました。月面探査や新型ロケットなどについても話し合われていましたが、私が一番関心を抱いたのが宇宙ゴミの問題。宇宙ゴミとは、たとえばロケットや衛星の残骸です。重さ数トンのものもあり、これが弾丸の10倍のスピードで動いていて、すでに活動中の人工衛星とゴミが衝突する事故も起きています。つまり、喫緊の問題です。ところが、誰も解決策を持たず、行動を起こしていなかったのです。なぜ、誰も行動を起こさなかったのでしょう。宇宙業界には工学部や理学部出身の人が圧倒的に多い。これらの学問は一つのことを突き詰めて研究し、法則を見い出し、それを他分野に活用するというアプローチをします。一方、私が学んだ農学は水と空気、植物や動物、昆虫や微生物など多様な要素がいかにして調和を保てるかを考える学問です。つまり、宇宙ゴミが増え続ける状態に対し、強い違和感を覚え、「これは大問題だ。自分がやらなければ」と考えたのは私が農学部出身だったからだと思います。新分野への参入に不安はありませんでしたか。私がドイツの学会で「宇宙ゴミ除去の会社をつくる」と言うと、多くの方が反対しました。理由は「市場がない」、「技術的に難しい」、「民間のスタートアップがやることじゃない」…。しかし、市場がなければ作ればいいし、そもそも課題は明確です。民間企業のほうがグローバルな展開もできます。だから、私にはワクワク感しかありませんでした。今年で創業9年目ですが、社員は300名を超え、海外に5つの拠点を持つまでに至りました。すでに人工衛星でゴミを除去する技術実証にも成功し、2025年頃からは宇宙の掃除を始めます。好きな言葉を教えてください。「未来とは創るものだ」という言葉です。未来は向こうからやってくるわけではありません。そんなことを思っていると、自分の居場所はどんどんなくなります。何かやろうとしても、調べれば調べるほど、すでに他の人がやっています。でも、未来は自分で創ればいいんだと考えれば、気は楽です。そして、未来を創るとき、それまでのキャリアは無駄ではありません。私も農学部で学び、その後、行政、コンサルティング、ITビジネスと経験しましたが、すべて今の仕事に生きています。点と点でしかなかったものがつながり、線になったと言えるでしょうか。大事なのは「これから」です。「これから」が「これまで」を決めるのです。アストロスケール創業者兼CEO 未来とは創るもの 「これから」が「これまで」を決める岡田光信

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