東京大学 大学院 農学生命科学研究科・農学部 広報誌『弥生』Vol.76 (Spring 2023)
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3詳しくはこちら、https://lab.fieldphenomics.com/ 生産性と持続性の両立が求められる21世紀のスマートな農業生産には、革新的な育種開発と栽培管理技術の高度化が必須となります。その中で、植物の表現型と遺伝子型や環境との関係を理解し、モデル化することが重要となります。モデル化により、数十年の経験を蓄積してきたベテラン、さらにはそれ以上の目で観察、判断しているように、求められる作物品種育成の効率化や、さまざまな環境下での作物栽培管理の最適化をして収量や品質向上、環境負荷低減などを支援することができると期待されています。 モデル化には、大量の植物表現型情報の蓄積が必須です。しかし、表現型の計測(フェノタイピング)は、その多くを時間も労力もかかる人手観測で行っています。そこで私たちは、ドローンやロボットといった機械の「目」をもたらすことを通して、効率や精度について人間の目を遙かに凌駕するフェノタイピング方法の研究開発を行ってきました。 ドローンを飛行させ、鳥の視点で圃場を見下ろした画像を撮影し、そして圃場の三次元再構築、デジタル化、画像解析など作業(図1)を行うことで、人間の目を一気に拡張できます。たとえばソルガムの育種圃場(図2)について1,440個に分けた小試験区(長さ5メートル)の収量性を比較するために、各試験区の穂数を人力で調査するには、かなり時間がかかりますが、ドローン穂数調査手法を利用すると、数十分の飛行と数時間の画像解析で調査が完了します。また、モモ果樹園(図3)をドローンによる三次元測量することで、収量や品質を向上させるための整枝や剪定のための複雑な技術指導を、新規就農者にも効率的かつ効果的に行えるようになります。これは、これまでのような紙媒体の果樹栽培指導指針だけでは困難なことでした。 私たちの研究室では、このような工学・情報科学と農学・植物科学を統合した植物フェノミクスと呼ばれる分野横断型研究を、画像データ利用を中心に行っています。将来、さまざまな「目」を創出することで人間の目を拡張し、賢い農業生産の実現を支えていこうと考えています。図3 果樹園におけるドローン三次元測量(a): 果樹園の三次元データ(b): 手前の木を拡大し、三次元で上下左右360度自由に見る様子(c): 樹形の三次元構造を定量的に自動分析する様子図2 ソルガム育種におけるドローン穂数調査(a): ドローン空撮画像から作成された圃場全体図(1,440小試験区) (b):1,440小試験区の一つ(赤い四角、長さ5メートル)を拡大した様子(c):深層学習による小試験区内の穂検出と計数の様子■スマート農業農林水産省の定義によりますと、「ロボット、AI(人工知能)、IoT(センシング技術)など先端技術を活用する農業」のことです。データ駆動型農業とも呼びます。 詳細はhttps://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/を参照。■植物フェノミクス植物のさまざまな表現型(草姿、果実や葉の形状・色彩、根の形態、収量、食味、植物体の生育・生理状態など)の計測や解析・評価を行う学際的な研究分野で、遺伝型(ジェノタイプ)について研究するゲノミクスと対をなしています。表現型を計測・解析・評価することをフェノタイピングと呼びます。  ■モデル化現在と過去の作物表現型(例えば収量)、及びその作物と関連する環境(気象、土壌、微生物など)、遺伝子データを大量に蓄積し、そのデータを用いて作物将来の表現型を予測するモデルを作成することです。モデルが完成したら、データに基づく農作業の自動化、最適化によるスマートな農業生産の実現を期待できます。図1 ドローンフェノタイピングの流れ(a): 飛行と写真撮影 (b): 圃場三次元再構築(c): マッピングとデジタル化 (d): さまざまな表現型をAI画像解析による算出図4 拡張する目で植物をフェノタイピング、モデル化するイメージ教えて!Q&A支援

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