東京大学 大学院 農学生命科学研究科・農学部 広報誌『弥生』Vol.76 (Spring 2023)
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畔5海■■津■裕■■■Frontiers 2 かつては手作業や牛馬で行っていた農作業の多くが今や機械化、自動化され重労働の占める割合が少なくなりました。その一方で、農家の方を悩ませているのが田んぼや畑の周りの土手や道(畦)の草刈りです。急な斜面を含む場所での草刈りは、機械を使っても、危険で大変な作業です。 私たちの研究室では、急傾斜にも対応可能な小型の草刈りロボットの開発を行ってきました。草刈りロボットは、自動的に指定された場所をくまなく効率的に走り回らなければなりません。そのためには自分の位置と方位を正確に知る必要があります。そこで、精度の高い測位衛星を使った方法(RTK-GNSS)や、レーザー距離計を使った方法(LiDAR-SLAM)を試しています。急傾斜や、果樹園の中でも数㎝程度の誤差で自動走行が可能であることが確かめられました。 草刈りロボットに残された大きな課題は、走行により畦畔が崩れてしまうことです。特に水田の畦畔はもろく、滑りやすいため、走行不能になる場合もあります。これを解決するため、現在、変形機構を備えた車体の開発を行っています。スキーのようにクローラーのエッジが斜面にくい込むことで横滑りと、土の崩れを防ぐことが期待できます。 今後は、農薬や除草剤を減らした環境保全型の農業が増えていくことが予想されています。その中で、従来の農業機械に考える力をプラスした賢い農業ロボットを作っていきたいと考えています。暑い日の草刈り、大変ですよね。人と協力して働く賢い草刈りロボットを開発して、農家の助けになることを目指しています。けいはんRTK-GNSSによって制御されるロボット草刈り機アンテナを2台つけることによって、位置だけではなく、方向も正確に計測することができます。四輪駆動で急な坂道も上り下りできます。田んぼの畦畔田んぼの周りに水が出ないように土手が作られています。雑草が生えるため年に数回の草刈りが必要です。傾斜は最大45度で立っていることもむずかしいくらいです。変形機構を備えた草刈りロボット車体が、斜面の傾きに合わせて変形し、左右クローラー(キャタピラ)にかかる荷重が均等になるように制御されます。これにより、斜面を滑らずにまっすぐ横切ることができます。RTK-GNSSはかりたい場所と決まった場所で同時にGPSの計測を行い、位置の測定誤差を数cmまで高められる技術です。かつては非常に高かったのですが、低価格化や小型化が進み、農業機械やドローンに使われるようになりました。LiDAR-SLAMあらかじめ作られた3次元の地図を参照しながら、レーザーを使って測定した周りのデータから自分の位置と方位を推定する手法です。GPS電波の届かない木の下や屋内でも使うことができます。写真は実験を行った栗園の3次元地図です。生物・環境工学専攻 生物機械工学研究室准教授RTK-GNSS田んぼの畦畔クローラー■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■■■教えて!Q&A草刈りはロボットにおまかせ!

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