東京大学 大学院 農学生命科学研究科・農学部 広報誌『弥生』Vol.77 (Fall 2023)
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芳■賀■猛■■■東京大学大学院農学生命科学研究科長・農学部長中嶋 康博 人類は生物種としてこの数世紀で驚異的に増えました。その成長は、食料や生活資材の供給源としての動植物との共存によって支えられています。 人類は長い歴史の中で野生種を選抜・馴化・品種改良して栽培化や家畜化に成功しました。それが人類の定住化を促し、そして文明化を導いたという説があります。その中で家畜化の一形態であるペットは古代から存在し、人間と動物との温かい関係性が指摘されています。その一方で家畜と共存することには感染症との闘いをもたらす厳しい側面もあったと言われています。 共存と言ってもその相手になったのは人類にとって都合のよい動植物に偏っています。たとえば穀類の栽培面積では小麦、トウモロコシ、稲が、家畜の飼養頭羽数では牛、羊、ヤギ、豚、そして鶏が圧倒的です。長い年月をかけて選択されてきましたが、近代農学によってさらなる選りすぐりの改良を施されて、ますます個体数を増やすことになり、グローバル社会で爆発的に増加した人類の食を支えてきました。生物としての生存戦略からすると、人類との共存は大成功だと言うことになるでしょう。 ただ、人類と共存した動植物の拡大は、その他の生物の生存を制約し、生物多様性・生態系保全に脅威をもたらしています。われわれは20世紀の最後の数十年にこのことへ強い懸念を覚え始めました。地球の有限性への認識もあいまって、現代の農学の視座を大きく変えることになり、新たな共存の姿が模索されているのです。獣医学専攻 感染制御学研究室(OSG国際防疫獣医学 特任教授)教授Yayoi HighlightTaking a One Health approach to tackling animal infectious diseasesFrom the Dean’s Office2 ワンヘルス(One Health)とは、3つの健康、すなわち人・動物・環境の健康は相互に密接に関係しているため、それらを総合的に良い状態にすることが真の健康である、という概念です。地球上の多様な生物との関係の中で生かされる人類という視点を忘れず、動物の感染症に挑みます。共存するワンヘルスアプローチで動物の感

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