東京大学 大学院 農学生命科学研究科・農学部 広報誌『弥生』Vol.77 (Fall 2023)
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詳しくは、東京大学 大学院農学生命科学研究科 獣医学専攻http://www.vm.a.u-tokyo.ac.jp/6Why have you chosen Department of Veterinary Medical Sciences ?農学はいま、持続可能な社会の実現に欠かせない実践学となっています。ここではインタビューを通じて、農学生命科学研究科に学ぶ現役学生と、弥生キャンパスを巣立った先輩たちのいまをご紹介していきます。Interviewsあなたはいま、何をしていますか?痛みには大きく分けてステロイド系の鎮痛薬が効く痛みと、そのような薬が効かない痛みがあります。私が研究対象としているのは後者。実は、痛みには細胞膜の脂質が関与しています。その脂質が酸化したり、酵素で代謝されたりするなどして、何百種類もの脂質がつくられるわけですが、その中の特定の脂質が神経に働き、痛みを引き起こします。それはステロイドの効かない痛みも同じです。そのため、痛みの原因となる脂質を特定するのが研究の第一段階。さらにそれをブロックする治療薬や治療法を開発するのが最終ゴールと言えるでしょうか。これまで実験により脂質をしらみつぶしに探してきた結果、ある程度、候補は絞られてきました。大学に残るにしろ、企業に入るにしろ、今後も研究を続けてゴールまで■り着ければと思います。研究というのは地味な作業の繰り返し。道のりは長く、現実には99%が失敗です。でも、ことわざに「人間万事塞翁が馬」とあるように、失敗だと思ったことが成功につながることもあれば、その逆もあるのが研究です。私はそこに研究の面白さや醍醐味もあると思います。毛細血管やその前後にある細動脈・細静脈などで構成される微小循環の研究をしています。循環器系の病気の一つに狭心症がありますが、従来、狭心症は冠動脈の狭窄が原因とされてきました。しかし、近年は微小循環の障害が原因となることも分かってきました。問題なのはこうした微小循環の障害は通常の冠動脈造影では分からないこと。そこで、動物を用いた実験で微小循環を制御するメカニズムを明らかにするのが、研究のテーマです。まだ基礎研究の段階ですが、将来的には狭心症の診断や治療につながればと思っています。獣医学の道に進んだのは、子どもの頃から人間と動物の共通点や相違点に興味があったから。たとえば、見た目はまるで違うのに、一つ一つの臓器は似ていたりします。そうした意識は案外、今の研究にもつながっている気がします。将来的には健康寿命の延伸に役立つような研究をしていきたい。私は長距離を走るのが好きですが、走っていると体の中を血液が循環しているのを実感できます。歳をとっても、そのような感覚を維持できる―そんな医療のために貢献したいですね。獣医学専攻で学ぶ以前は、犬や猫の獣医になることを漠然とイメージしていました。でも、獣医学を学ぶうちに大動物の臨床に興味が湧き、卒業後は畜産農家を対象とする動物病院に勤務しました。非常にやりがいのある現場でしたが、日々臨床に追われ、病気の根本的な原因を究明できないことに疑問を感じ始めました。悩んだ末に博士課程に戻ることを決意し、病院を2年で退職。今は乳牛の受胎率を上げるための研究をしています。受胎率の低下は乳や肉の生産性を低下させ、酪農経営の圧迫を招きます。私は雌牛の子宮の奇形を主に研究しているのですが、奇形により受胎率の低下や流産の可能性が高まります。原因は遺伝子にあるとされ、その遺伝子を特定するのが現在の課題です。酪農家に出向いて調査することも多く、そこで耳にするのが酪農家の方たちが抱えた数々の問題。たとえば、近年、飼料価格が急速に高騰しており、エコフィードの必要性は急務となっています。今は牛の研究がメインですが、酪農家を守り、誰もが安定的に牛乳やお肉を摂取できるような社会のために貢献していくのが私の夢です。放射線動物科学研究室 2022年博士課程進学獣医衛生学研究室 2023年博士課程進学獣医繁殖育種学研究室 2021年博士課程進学狭心症の診断や治療に役立つ研究を健康寿命の延伸に貢献したい新しい鎮痛薬を開発する座右の銘は「人間万事塞翁が馬」乳牛の受胎率を上げる日本の酪農家を守りたい竹ノ内 晋也 Shinya Takenouchi永嶋 祐安 Yoshiyasu Nagasima中平 陽子 Yoko Nakadairaなぜ獣医学専攻を選んだの?

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