東京大学 大学院 農学生命科学研究科・農学部 広報誌『弥生』Vol.78 (Spring 2024)
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子どもの頃から本を読むことが好きだった私は、5歳上の兄のために両親が買いそろえた童話や昔話を就学前から読みあさり、夢は「ものしりはかせ」になること。小学生の高学年になる頃にはSFや推理小説ばかり読むようになりました。私が「科学的思考」や「論理的思考」の存在を知ったのはこのSFや推理小説からではなかったでしょうか。 そんな私ですから研究者の世界に入っても目指すは「もの知り博士」。いろいろなものに興味を持つのですが、いかんせん能力が伴いません。手先は不器用で実験系はとんと駄目ですし、抽象化の極限たる数学はある程度以上になるとイメージがついていかず、記憶力が悪いわけではないのですが丸暗記というのが大の苦手と、使いものになりません。そんな私が大学時代に巡り会ったのが「マイクロコンピュータ(マイコン)」つまり今のパソコンです。それまではコンピュータといえば大型計算機が当たり前だったのですが、ちょうど卓上で動くコンピュータとしてマイコンが世に出始めたところで、今ならお笑い草にもならない低スペックのコンピュータが結構なお値段で販売されていました。卒業論文からマイコンを使ったシミュレーションを手がけ、とうとう博士論文まで「シミュレーションモデルを使った天然林の成長Seiji Ishibashi予測」という怪しげな研究でまとめることになりました。私の愛読したSFの世界では「未来の計算機」だったコンピュータを使って、自分の進路を決めることになったのは不思議な縁としかいいようがありません。ちなみに博士論文で行った「天然林の成長予測」ですが、つい最近会った昔の教え子が「天然林の成長予測が必要だということになって過去の文献を調べてみたんですが、先生の博士論文くらいしかでてこないんですよねぇ」とぼやいていたくらいレアな研究テーマだったようです。 昭和が終わり平成になって1ヶ月ほど経った1989年2月に東京農工大学農学部の助手となり研究者と教育者の2足のわらじを履いてお金を稼ぐ身になりました。それ以来、2000年4月に東京大学に移るという環境の変化はあったものの、35年間大学教員として過ごしてきました。その間大勢の学生さん達と接してきましたが、研究室に入りたいといってきた学生さんには「私の専門は森林経理学といって森林の管理を扱う分野。森林管理のために不要な知識は無いのでどんどん興味のあるテーマにチャレンジしなさい。」といつもいってきました。そして、これから研究者、いや科学者を目指すみなさんには次の言葉を贈ります。「科学の始まりは好奇心。好奇心を満たすためには自分の得意な方法でいろいろチャレンジしてごらん。」附属演習林 森林圏生態社会学研究室No.18Epiphaniesその瞬間「もの知り博士」になりたくて石橋 整司教授

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