東京大学 大学院 農学生命科学研究科・農学部 広報誌『弥生』Vol.78 (Spring 2024)
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菊■■池■潔■■■東京大学大学院農学生命科学研究科長・農学部長中嶋 康博 農学が長年取り組んできた課題は、人類を養うためにいかに良質な食料を増やすかでした。農学において「活かす」とは、人類の生存を支えてくれる動物や植物を選択的に「生かす」ことだったと言えます。この育種の活動において、良い形質の親同士を交雑し、生まれたより望ましい形質をもつ子を選抜します。人類の長い歴史の中で数えきれないほどの在野の実務家が、経験に基づいた取り組みを積み重ねました。 その後、遺伝学に基づいた育種が展開しますが、近代的な育種においても長らくは、良い形質をもったものの選択を形態や収量などの表現型の情報を手掛かりにしていました。今では全ゲノム解析が様々な生物を対象に行われて、目的とする形質と遺伝子とを紐づける遺伝モデルなども利用できるようになり、ゲノム情報を「活かす」育種も行われるようになっています。また表現型の情報は、かつては観測技法の限界から粗いものにとどまっていたのが、今では情報技術の進歩によって精密なデータで構成されつつあります。生命科学と情報科学の発達は、かつて手探りだった育種をエビデンスに基づく取り組みへと導いています。 一方、農畜水産物や食品の品質情報も科学的により正確に把握できるようになりましたが、それが消費者の選択をどのように左右するか評価する研究も進み、これらの情報を「活かす」ことで望ましい育種方針や生産振興計画へフィードバックさせる可能性が広がりつつあります。附属水産実験所教授Yayoi HighlightGenomes, Fish and PredictionFrom the Dean’s Office2 「もはや日本は水産後進国」と言ったのは、2015年の農林水産大臣でした。これが本当かどうかはともかく、今、「養殖先進国」といったとき、そこに日本が入っていないことは確実のようです。私たちは、ゲノム情報と予測科学を活用して、世界を再び牽引できるような研究成果をあげることを目指しています。活かすゲノムと 水産

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