0昭和35(1960)9633■■■■■■■■■ ■ 水産と言えば「鄙びた漁港」を連想する人が多いと思います。しかし、世界全体でみると、養殖産業の成長率は非常に高く(日本は一人負けと言われています)(図1)、欧州などにある海外の養殖先進諸国では、生物系・環境系・工学系・情報系の研究者が、その産業発展に貢献すべくしのぎを削っています。 こういった動きの中で、一部の学者が注目しているのが「ゲノム情報を利用した予測学」です。これは「進化を予測する学問」と言いかえ■ゲノム情報を利用した予測学本稿では、専門用語である「ゲノム予測」に加え、ゲノム情報を利用した予測一般も含める意図でこの言葉を用いました。なお、「ゲノム予測」とは、多数個体から取得したゲノム情報と表現型情報を用いて遺伝モデル(回帰式)を作成し、これをもとに別の個体の遺伝的能力を予測することです。てもよいかもしれません。例えば、ゲノム情報を利用して「少ない餌で早く育つ集団」を人工的に進化させることができれば、その成果は産業の発展にも環境負荷の低減にも寄与します。また、この考え方を天然の集団に適用すれば、温暖化が進んだときに絶滅しやすい地域集団はどれか?といった問いにも答えられそうです。 水産実験所も、この「ゲノム情報を利用した予測学」に取り組んでいます。当実験所では、20年ほど前から魚類の全ゲノム解析を行っていたという背景もあり、今では、1年間に3,000個体程度のゲノム情報を取得することが普通になっています。この数はまだまだ少ないとも言えるのですが、そこから出てくる情報量はすでに膨大です。 最近まで力をいれていたのは「魚介類の性決定遺伝子を利用した雌雄予測」でした(図2)。しかし、介類はともかく魚類については、性決定の遺伝基盤が比較的単純であることがわかってきて、このテーマは山場をこえた感があります。いま力をいれつつあるのは、「成長」や「環境変動への耐性」といった複雑な遺伝基盤をもつ形質の研究です。 世界の各地で、養殖された温水性海産魚介類があたりまえのように口にされていますが、これらを飼育できるようになったのは20世紀半ば以降のことで、その飼育技術の多くが日本で確立されました。これらの技術的遺産をも取り込んで、魚介類集団の遺伝的変化をより正確に予測し、それを自在にあやつれる系を構築したいと考えています。資料:FAO「Fishstat (Global capture production, Global aquaculture production)」(日本以外)及び 農林水産省「漁業・養殖業生産統計」(日本)に基づき水産庁で作成図1 世界で拡大・高度化する養殖産業養殖生産の急激な増加をあらわす。縦軸は生産量を、横軸は年をしめす。令和4年度水産白書のp.149より転載。図3 ゲノム予測千万t24211815124555平成2(1970)(1980)(1990)1222(2000)(2010)令和3年(2021)456尾のトラフグからゲノム配列情報(約3,000個の遺伝子座)を取得した後、雌雄間の比較を行い、性決定遺伝子の位置を決定した。縦軸は性と遺伝子座の関連の強さを、横軸は各遺伝子座の染色体上の位置をしめす。図4 ブリ類御三家上からカンパチ、ヒラマサ、ブリ。シーボルトの日本動物誌より転載。■温水性海産魚介類本稿では、暖流系の海域に生息する魚介類を総称する意味で、この言葉を用いました。代表的な例は、ブリ類やタイ類。その養殖技術の多くは日本で確立されています。一方、西洋で開発された養殖魚の代表であるサケ類は冷水性魚類です。詳しくはこちら、https://www.se.a.u-tokyo.ac.jp/japanese.html■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ff■■■■■■■■■■■■■■■■■■ff■■■■■■■ff■■■■■■■■■■■■■■ff■■■■■■■■■■■■■内水面養殖業海面養殖業内水面漁業海面漁業■■■■■■教えて!Q&A予測図2 性決定遺伝子の同定
元のページ ../index.html#3