木■■下■■滋■■晴■■ 私たちヒトの最大寿命は120歳程度とされています。平均寿命が延びても120歳を大きく超えるヒトは知られていません。一方、ヒトと同じ脊椎動物でも寿命がはっきりせず、多様性がとても大きい生き物が存在します。その代表が魚です。脊椎動物で最も長命な種は魚です。ニシオンデンザメでは392歳という個体が報告されています。一方、脊椎動物で最も短命な種も魚です。熱帯のハゼの仲間はわずか59日の寿命しかありません。魚は「寿命の多様性の謎」を知るための魅力的な研究対象なのです。 われわれは、実際に、脊椎動物の最長命種のニシオンデンザメのゲノム解析に取り組んでいます。深海に生息する大型のサメで、入手が大変でしたが、現在ゲノム解析を進行中で、ゲノムサイズがとても大きいことや、深海に適応した遺伝子の変化などがわかってきています。ゲノムから極端な長命の謎を理解できることを期待しています。また、短命な魚としてはアユに注目しています。アユは寿命が1年で、産卵後に一斉かつ急速に死んでしまいます。この際、ヒトの老化と少なくとも部分的に同じ現象が起きていることを確認しています。通常、寿命の研究には長い時間がかかりますが、アユを使うと短期間で解析でき、さらに、成熟をコントロールすることで寿命もコントロールできます。放精後のオスアユ産卵後のメスアユ産卵・放精後のやせ細ったアユ生まれて1年で成熟し、産卵・放精後はオスもメスも急速に痩せて筋肉が萎縮し、死んでいきます。4 アユは新しい寿命解析モデルとして大きな可能性を持つと考えています。 こうした魚の研究から寿命の多様性を理解すると共に、そもそもなぜヒトの寿命が120歳なのかについても、魚から新しいヒントを得られるのではと期待しています。海を泳ぐニシオンデンザメ脊椎動物の最長命種であることが知られています。背中についているものは行動解析用の記録計。撮影:NRK/Armin Mück魚の寿命はどうやって調べるの?魚の寿命は耳石で調べることができます。耳石とは、魚の頭にある炭酸カルシウムでできた石です。魚が成長するにつれて耳石も大きくなりますが、その際に木の年輪のように同心円状の模様ができます。その模様を数えることで、魚の年齢を知ることができます。ただし、サメなどの軟骨魚には耳石がありませんので、ニシオンデンザメの寿命は目に含まれるタンパク質の放射性炭素を使って調べられました。魚以外ではどんな寿命の生き物がいるの?水中の生き物には不思議な寿命の動物がたくさんいます。例えば、ベニクラゲというクラゲは、調子が悪くなると‘若返る’ということが知られています。クラゲは卵から生まれてポリプになり、その後クラゲになって泳ぎだしますが、ベニクラゲはクラゲからポリプに戻ることできるのです。また、ヒドラやアカネアワビといった生き物は、年をとっても死亡率が変化しない、つまり老化しないと考えられています。寿命や老化は、全ての生き物に当てはまるわけではないようです。熱帯魚ジャイアントダニオの耳石水槽を泳ぐベニクラゲ水圏生物科学専攻水圏生物工学研究室准教授On The Frontiers種によって寿命の長さは違います。長く生きる種と早く死んでしまう種の違いは何なのでしょうか?魚からそれがわかるかもしれません。Frontiers 1詳しくはこちら、https://www.suikou.fs.a.u-tokyo.ac.jp/blog/%E7%A0%94%E7%A9%B6%E5%AE%A4%E7%B4%B9%E4%BB%8B/教えて!Q&A農学最前線400年生きる魚と1年で死ぬ魚
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