阪■■井■裕■■太■郎■■ 鮮度の価値を定量化するにはどうしたらよいだろうか? 原理的には、全く同じ商品を用意して、鮮度に差をつけた状態で売ってみればよいだろう。鮮度がよい方が高く売れるなら、鮮度には付加価値があるといえそうだ。しかし、自分で売るのは大変だし、代表性のある大きなサンプルを作り出すのは不可能に近い。そこで、実際に市場で売られている商品の価格と鮮度をデータセットとして収集し、それらの関係性を統計的に分析する手法を用いることにした。 データ収集は体力勝負だ。都内の鮮魚販売店99店舗を車で回り、丸のマアジとマイワシを購入し、その価格と鮮度を記録した。鮮度測定には大和製衡株式会社のFish AnalyzerTM Proを用いた(図1)。調査当日に入荷が無かったり、売り切れていたりした場合も多かったため、結果としてマアジは84店舗から260尾、マイワシは63店舗から201尾を得た(図2)。 分析の結果、マアジについては鮮度値が0.1増えると価格が18.56%上がるという結果が得られた。一方、マイワシの鮮度には付加価値はないということが分かった。小売店で丸のマアジを買って生で食べる消費者は一定数いそうだが、丸のマイワシを買って生のまま食べる消費者はほぼいないだろう。今回の結果はこのような食習慣の違いと整合性があると言える。以上より、鮮魚販売店にとってマアジの鮮度維持の努力をすることによる見返りは大きいという示唆が得られた。水産物の品質の中で消費者が重視するのが「鮮度」である。だが、鮮度にどれくらいの価値があるのかを具体的に答えられる人はどのくらいいるだろうか?今回は、鮮度の価値を世界で初めて定量化した私の最新の研究を紹介したい。図2 サンプリングを行った99店舗の地理的分布2020年の夏に17回にわたってサンプリングを行った99店舗の地理的分布。千代田区と渋谷区は鮮魚販売店が少ないためサンプルに含まれていない。図1 Fish AnalyzerTM Pro (出典:大和製衡株式会社)異なる周波数の電気を魚体に流し、それらの電気抵抗の大きさをもとに鮮度を測定する装置。非破壊で約4秒で鮮度を測定することが可能。鮮度は5段階で表示されるが、研究用に鮮度の連続値も提供を受けることができる。鮮度って何ですか?一般的には「漁獲された時の状態にどれくらい近いか」というのが鮮度の概念です。これをどう測るかについては様々な手法が提案されています。小売店では朝締めや産地直送などのシールを貼って、漁獲からの時間の短さを鮮度指標としてアピールしています。学術的に最も信頼性が高いと考えられているのはK値という化学的な鮮度指標です。この他にも、魚体の硬さ、匂い、微生物量、そして電気抵抗から測る手法などが存在しています。Fish AnalyzerTM Proはどうやって鮮度を測っているの?魚体に電気を流す際に、高い周波数の電気は細胞内を通るのに対し、低い周波数の電気は細胞外を通ります。一般的に、鮮度が低下すると細胞膜が崩れて中の水分が出てきます。その結果、高い周波数と低い周波数の電気の流れ具合は、鮮度の低下とともに変化します。Fish AnalyzerTMProはこの点に注目して、周波数の異なる複数の電気を流すことで鮮度の低下具合を推定しているのです。農学国際専攻国際水産開発学研究室写真 最高鮮度シールを貼ったマアジのお造りFish AnalyzerTM Proの測定原理(出典:フィッシュアナライザ・シリーズ 技術資料)准教授Frontiers 2詳しくはこちら、https://www.journals.uchicago.edu/toc/mre/current5教えて!Q&A鮮度の価値を解明する
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