東京大学 大学院 農学生命科学研究科・農学部 広報誌『弥生』Vol.78 (Spring 2024)
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詳しくは、東京大学 大学院農学生命科学研究科 水圏生物科学専攻http://www.fs.a.u-tokyo.ac.jp/6Why have you chosen Department of Aquatic bioscience ?農学はいま、持続可能な社会の実現に欠かせない実践学となっています。ここではインタビューを通じて、農学生命科学研究科に学ぶ現役学生と、弥生キャンパスを巣立った先輩たちのいまをご紹介していきます。Interviewsあなたはいま、何をしていますか?海に流出したプラスチックが紫外線や波の影響で細かく砕けたものを海洋マイクロプラスチックと呼びますが、その研究をしています。中でも私の研究対象は300μm以下の微細なプラスチック。従来の手法では300μm以下のプラスチックはネットから抜け落ち、採取できませんでした。しかし、300μm以下というサイズはプランクトンの■のサイズと一致します。つまり、それをプランクトンが食べ、海の生態系に大きな影響を及ぼしているかもしれません。私が考えたのは、高い濾過効率を持ち、海水中の■をランダムに摂取しているサルパ類という動物プランクトンを使う手法。サルパ類を通過していく海水の量と体内に蓄積されたプラスチックの個数から、その海域に存在するマイクロプラスチック量を推算するわけです。修士に進んだ現在は、実際にこの手法でマイクロプラスチックの密度を計測し、その結果を論文にしています。今後はシンクタンクに就職し、広く海洋問題を解決するエキスパートを目指します。海が好きな私はスキューバダイビングなどでたくさんの感動をもらいました。美しい海を守ることはその恩返しだと思っています。現在、水圏に生息するカビと細菌を一緒に培養する実験を行っています。カビと細菌を共培養することにより、お互いがさまざまな防御物質を出し合うため、ここから新種の化合物を見つけようというわけです。最終的にはこの物質が抗酸化作用や悪い菌を殺す効果を持っているか、さらに医薬品など人間に役立つ有用物質に応用できないかを実験等によって明らかにしていきます。こうした研究は昔から行われてきましたが、ゲノムやDNAなどの生体情報を解読する技術が飛躍的に発達したことにより、まだまだ新しい化合物を作れそうな遺伝子があることが分かってきました。私自身はまだ研究に着手したばかりですが、宝探しにも似た面白さを実感しています。海の近くで生まれ育ち、小さい頃から海や海の生き物に触れるのが好きで、海洋学者になるのが夢でした。修士課程を終えたあとは、企業に入って研究を続けられたらと考えています。長い時間を要する仕事なのは間違いありませんが、人の健康に貢献できるような物質を見つけたいと思います。中国の大学では理学部の生物科学専修で学びました。あらゆる生き物に関する知識を学びましたが、その中で私が一番興味を持ったのが海洋生物。それも宿主と寄生虫の相互作用でした。東大農学部の大学院では魚病学研究室に所属し、アサリの寄生虫パーキンサスについて研究しています。アサリ資源減少の一因はこの寄生虫にあるのですが、生態はよく分かっていませんでした。私は修士課程の2年間で、パーキンサスがアサリのどの物質を取り込んで増殖を行うかを研究し、該当する物質を突き止めることができました。現在は寄生虫がこの物質をどのように使って増殖するか、その複雑なメカニズムの解明に努めています。解明できれば、アサリの減少に対し、有効な対策の確立にも繋がります。中国に「天道酬勤」という言葉があります。努力すれば必ず報われるという意味です。研究は失敗が9割以上。しかも農学は地味な学問です。でも、あきらめなければ、成果は得られるし、人と社会に大きく役立ちます。そこに農学ならではのやりがいを感じます。夢はノーベル賞を受賞することです。水圏生物環境学研究室 2023年修士課程進学水圏天然物化学研究室 2023年修士課程進学魚病学研究室 2023年博士課程進学健康に貢献する有用物質を発見したい宝探しにも似た面白さがある感動をくれた海に恩返ししたい海洋問題解決のエキスパートに努力すれば必ず報われる夢はノーベル賞江上 賢悟 Kengo Egami日々 桃香Momoka Hibi劉 宇琪 Yuqi Liuなぜ水圏生物科学専攻を選んだの?

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