東京大学 大学院 農学生命科学研究科・農学部 広報誌『弥生』Vol.78 (Spring 2024)
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7PROFILE梅村 桂 Kei Umemura1991年、東京生まれ。2014年、東京大学農学部国際開発農学専修を卒業し、農業法人に就職。福井県にて大規模トマト栽培施設の立ち上げ、流通業務にも携わる。2017年、消費地に近い農業を志し、東京都清瀬市の農家にて研修。2019年、日野市の生産緑地を借り受けて新規就農し、ネイバーズファームを設立。京王線の高幡不動駅から徒歩約10分採れた野菜をすぐに自動販売機へ売上の3割はこの直売が担っている卒業生人名録 14いつ頃から就農を志したのですか。東大には文Ⅲで入学し、3年の学部選択のときに農学部を選びました。理由は国際機関のようなところで働きたかったので、そのためには理系の専門知識を身に付けたほうがいいだろうと考えたからです。農学部では発展途上国でのフィールドワークやボランティア活動もしました。そうした経験により農業が人の営みの基盤となることを肌で実感し、自分も農業で社会に役立つことをしてみたいと考えるようになったわけです。卒業後は農業法人に就職されました。ちょうど農業の6次産業化が話題になり始めていた頃で、入社2年目に福井県における大規模農場の立ち上げに携わりました。このとき、私は生産者のもとでトマトづくりの基礎から、農業経験まで徹底的に学ぶことができました。そして、次に考えたのがすべてをゼロから自分の手でやってみること。それも都心に近い場所で地産地消の農業をすることでした。農業法人を退職し、清瀬市の農家で働きながら都市部の生産緑地を探し始めたのですが、私が希望するような土地はなかなか見つかりませんでした。新しい法律が追い風になったとか。土地を探して2年が過ぎた頃、都市農地賃借円滑化法が制定され、東京でも生産緑地の貸借がしやすくなったのです。同時に東京農業会議という団体にサポートしていただき、日野市の住宅街に貸借期間30年という好条件で農地を借りられました。2年目には補助金も下り、トマト栽培に必要なビニールハウスをつくりました。狭い土地で収益を挙げるにはトマ将来の夢は?10年後、20年後のことはあまり考えていません。目の前にある課題を一つひとつ解決しながら、社会と関わっていけたらいいなと思っています。あえて夢を挙げるとしたら、農業の価値や東京でも農業がビジネスとして成り立つことをちゃんと伝え、就農者を増やしていくことでしょうか。でないと、やがて東京の農地は無くなってしまいます。農業は、たとえば受験問題を解くのと違って、なかなか答えが見つかりません。人間のメソッドや意図を超えたところに答えがあります。そこに農業の醍醐味もあるし、一度その面白さにハマると、なかなか抜け出せません。トは最適です。栽培方法は土の代わりにヤシガラを使った養液栽培。床には太陽光の反射率が高い白いシートを敷き、温度もITシステムで管理しています。ホームぺージに「心を満たす」農業を目指しているとあります。生産者と地域の人が身近な距離で有機的につながるような農業を目指しています。農業を身近に感じられれば、食の安心感にもつながります。現在、収益の7割をトマトが担っていて、残りは大根、枝豆、ズッキーニ、水菜など30種以上の旬の野菜。こちらは赤字ですが、こうした露地野菜を通して季節の豊かさを感じてほしい。直販にこだわるのも新鮮でおいしい野菜をリアルタイムで届け、お客様の反応を見たいから。「ネイバーズファーム」という社名にもそんな想いが込められています。「お隣さんちで採れた野菜だよ」と。おかげさまでお客様のほとんどはリピーターです。問われるのは手法より目的心を満たす農業を就農者を育て、東京の農地を守るネイバーズファーム 代表 梅村 桂

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