■日中韓環境大臣会合(TEMM)日本・中国・韓国の3カ国の環境大臣が、北東アジアの環境協力強化と地球規模での環境改善への貢献を目指して開催する会合で、TEMMの枠組みの下で優先度の高い課題について共同プロジェクトが実施されています。黄砂共同研究はそのひとつで、日中韓に加えモンゴルを招へいし、北東アジアにおける黄砂モニタリング・早期警報システムの構築および黄砂の発生源対策に関する共同研究を行っています。http://temm-dss.com/う図1 砂漠化と気候変動の関係(模式図) 地球の全陸地の4割を占め,全人口の3分の1の人々が暮らす乾燥地では今、深刻な砂漠化が進行しています。砂漠化はローカルな土地の劣化を引き起こすだけでなく、生物多様性の損失や気候変動との相互作用を通じてグローバルな影響を招くとされています(図1)。砂漠化は決して対岸の火事ではなく、私たちの暮らしにも関わる地球規模の環境問題なのです。そのため、砂漠化の影響を受けている国に対して国際社会が協力しながら解決に向けた取り組みが進められています。 砂漠化対処には、砂漠化の程度や環境収容力を評価する「診断」から、緑化等により荒廃した土地を修復する「治療」、砂漠化を引き起こさないように土地を利用・管理する「予防」まで、さまざまなアプローチがあります。こうした取り組みを効果的に進めていくためには、国内外の研究者間のみならず、多様な関係者との協働が不可欠です。 私たちが現在モンゴルで行っているプロジェクト(代表:浅見忠男名誉教授)では、遊牧民に伝承されてきた有用植物に関する伝統的知識を最先端の科学で紐解き、それらを有効に活用・導入することで家畜の健康と草原の回復を図る=「治療」することを目指しています。これまでモンゴル側研究者との共同研究により、ストレス耐性や高生産性などの特性を持つ候補植物の生理機能や原因遺伝子の特定、植物由来の新規機能性化合物の同定等を行うとともに、現場に普及可能な実践的栽培技術の開発を進めてきました。今後、成果の普及や実装に向けてますます重要になるのが、現場ユーザーとの連携の強化です。そこで私たちは、国や地方政府の放牧地管理担当者、遊牧民代表、NPO団体等との意見交換や研修会等の開催を通じて現場ニーズや問題点の把握に努め、研究成果の円滑な普及と遊牧民の主体的な活動が進むような仕組みづくりに取り組んでいます(図2)。 その他、アフリカのエチオピアでの「持続可能な土地管理」(解説欄参照)フレームワーク開発に関するプロジェクトや、黄砂の発生源である北東アジア乾燥地における砂漠化対処に関する日本、中国、韓国3カ国による国際共同研究(解説欄参照)など、地球上のさまざまな地域で、多様な連携によって「土地劣化ニュートラル(中立)」(解説欄参照)な社会を目指した取り組みを続けています。 ェクト の導入が期待されているChloris virgata(左)生育初期(発芽72日後)の様子 バー):5cm Sci, 2021) https://doi.org/10.3389/fpls.2021.684987 ための野外実験(b)TEMM黄砂共同研究・発生源対策ワーキンググループによる日中韓合同野外調査(中国・内蒙古自治区フルンボイル草原)SLM技術のひとつ、ソイルバンドとよばれる土手。牧草(写真はネピアグラス)を植えることで土壌保持機能が強化される(エチオピア・アムハラ州バハルダール近郊の実験区)赤い線は正(増加)の影響、青い線は負(減少)の影響、灰色の線は不確定な影響(正と負の双方の可能性がある)。実線は直接的影響、点線は間接的影響。出典: https://www.env.go.jp/nature/shinrin/sabaku/index_1_3.html#s3引用元: Mirzabaev, A. et al. 2019:Desertification.In:Climate Change and Land: an IPCC special report on climate change, desertification, land degradation, sustainable land management, food security, and greenhouse gas fluxes in terrestrial ecosystems[P.R. Shukla et al. (eds.)], 3.3, Figure 3.8, p268-269■持続可能な土地管理 (Sustainable Land Management)適切な土、水、植生の管理によって、長期的な土地生産力、環境の保全、生計の維持すべてを実現するような技術や仕組みを指す概念で、最近の砂漠化対処は、SLMによる総合的地域開発が主流となっています。SLMの世界的ネットワークであるWOCATのサイトでは、SLMの実践事例に関するデータベースにアクセスすることができます。https://www.wocat.net/en/■土地劣化の中立性(Land Degradation Neutrality)生態系の機能およびサービスを保持し、食料安全保障を向上させるために必要な土地資源の量と質が、ある生態系もしくは空間において安定または向上している状態を指し、砂漠化対処を推進するための目標となる概念です。持続可能な開発目標(SDGs)のターゲットのひとつ(15.3)にもなっています。詳しくはこちら、https://www.jst.go.jp/global/kadai/r0106_mongol.htmlhttps://www.jica.go.jp/oda/project/1900792/index.html3教えて!Q&A
元のページ ../index.html#3