東京大学 大学院 農学生命科学研究科・農学部 広報誌『弥生』Vol.79(Fall 2024)
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神■■谷■ 岳■■洋■■ バングラデシュの国歌「我が黄金のベンガルよ」には、バングラデシュの自然の豊かさ、稲穂がゆれる水田がうたわれています。アジア人で初めてのノーベル賞受賞者であるタゴールによるもので、1905年に作詞されました。それから100年以上経った今でも、その風景は変わることなく、市街地を抜けると広大な水田が広がり、収穫期には黄金のベンガルを見ることができます。 バングラデシュ人はコメをたくさん食べます。しかし、不幸にもこのことが健康被害をもたらしています。一つは、毒性元素であるヒ素の摂取による健康被害です。バングラデシュは世界最大のヒ素汚染地帯であり、地下水に天然由来のヒ素が含まれています。この水を、飲料水として利用したり、また、灌漑水として栽培したコメを食べることにより、ガンなどの健康被害をもたらしています。もう一つは、人における鉄や亜鉛の欠乏症(隠れた飢餓)です。カロリーの多くをコメに依存するため、コメにあまり含まれていないこれら栄養素の欠乏症を引き起こしています。 これら問題解決に向けて、本プロジェクトでは、鉄や亜鉛を多く含むコメの育種、ヒ素をあまり含まないコメの育種や、水管理によるコメ中ヒ素低減技術の普及に取り組んでいます。日本側研究機関とバングラデシュ側の大学、政府機関が協力して、課題解決に必要な技プロジェクトの実験圃場ダッカから北へ100kmほど行ったマイメンシンのバングラデシュ農業大学内にあるプロジェクトの実験圃場です。コメ中元素濃度が異なる変異株の栽培や、様々な水管理でのイネの栽培を行なっています。4 術開発に加えて、施設の整備や人材の育成を行なっています。興味がある方はプロジェクトのFacebook(下記URL)を見ていただけると幸いです。農家への聞き取り調査の様子バングラデシュの中でも特にヒ素汚染が深刻な農村での聞き取り調査(水管理の方法や栽培しているイネの品種について)。灌漑に利用するこの井戸は高濃度のヒ素を含んでおり、コメのヒ素濃度も基準値以上でした。バングラデシュってどんなところ?日本の国土の4割ほどの面積に1.7億人が住んでいる、とにかく人が多い国です。首都ダッカは世界一の人口密度を誇ります。数字は、ベンガル数字が利用されており、例えば、「■、■」は、アラビア数字の「4、7」を意味します。毎渡航時、慣れるまで混乱します。カレーや、ジャックフルーツ、マンゴー、ドラゴンフルーツなどの果物が安くて美味しい国です。コメをどれくらい食べるの?一人あたりのコメ消費量は478 g/日(日本は 156 g/日)と世界1位で、1日のカロリー摂取量のうち2/3をコメから得ており、この数値も世界1位です(FAOSTAT 2021)。パラパラとした食感のインディカ米が食べられており、カレーとよく合います。大学のゲストハウスの庭に実るジャックフルーツ街の食堂の米びつ応用生命化学専攻 植物栄養・肥料学研究室准教授On The Frontiers世界有数のコメ生産・消費国バングラデシュ。コメが主食であるこの国では、コメにまつわる健康問題が発生しています。育種と栽培の異なる手法の開発と社会実装により、その解決を目指す我々のプロジェクト(Safe And Nutritious RICE project)を紹介します。Frontiers 1詳しくはこちら、植物栄養・肥料学研究室: https://park.itc.u-tokyo.ac.jp/syokuei/SANRICE project Facebook: https://www.facebook.com/p/Safe-and-Nutritious-Rice-100093793912961/教えて!Q&A農学最前線SANRICE project

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