東京大学 大学院 農学生命科学研究科・農学部 広報誌『弥生』Vol.80 (Spring 2025)
8/12

8 長い間眠っていた資料も、当たり前に思われていた事物も、虚心坦懐に見つめれば、新たな発見や気づきがある。農学とは過去へも未来へもつながる、悠久の回廊だ。報告した時に基準とした標本(タイプ標本と呼ばれる)の1つ。そのことを示す「Co-typus」の赤色の印が、左側のラベルに押してある。左のラベルのTuja odorataDoi (TujaはThujaの誤記)は、本多の教え子である土井藤平(のちに九州帝国大学教授)がこの標本をもとに1915年に植物学雑誌に仮の学名を提案したもので、中井の論文では異名とされている。ヒノキ科のニオイネズコ(Thujakoraiensis Nakai , 別名チョウセンネズコ)のさく葉標本。東京帝国大学農科大学林学科の初代教授で、明治神宮の森や日比谷公園を設計したことで知られる本多静六が、1915(大正4)年10月に、朝鮮(現在の北朝鮮)の金剛山で採集したもの。東京帝国大学理科大学の植物分類学者中井猛之進が、この植物を新種のニオイネズコとして、1919年に植物学雑誌に新種記載された中井の論文は、https://www.jstage.jst.go.jp/article/jplantres1887/33/395/33_395_193/_article/-char/ja、土井の報告は、https://www.jstage.jst.go.jp/article/jplantres1887/29/348/29_420/_pdf/-char/ja〈標本室から ①〉農学回廊

元のページ  ../index.html#8

このブックを見る