プロフィール

中嶋 正敏

中嶋 正敏

NAKAJIMA Masatoshi

専攻 応用生命化学専攻 Department of Applied Biological Chemistry
研究室 生物制御化学研究室 Laboratory of Chemical Biology
職名 教授 / Professor

一般の方へ向けた研究紹介

ヒトに益をもたらす植物の成長制御とは?

 リンゴの品種の中には、通常皆さんが見かけるものと大きく違って樹の形が棒状になるものが存在します。なぜそんなヘンテコな形になるのでしょうか。まだ分からないことが多いのですけど、このリンゴの枝の中に存在する物質が異常な代謝変換を受けることが直接の原因であると分かりました。でもこうした樹の形は、枝の剪定(せんてい)作業が容易になるとか、実を収穫するロボットが枝に接近しやすくなるなど、農産の現場ではとても歓迎されることだそうです。そのため私たちは、棒状の形になる仕組みの全容を解明すべく研究をしています。またこれとは別に、ある種のコケ植物が作る物質にも興味を持っています。注目の物質が体内に存在すると、葉緑体が数多く含まれる細胞が分化して葉緑体を少ししか含まない別種の細胞になります。これは、オスとメスの器官分化に繋がるものなので、ひいては次の世代への接続を促す「よい変化」と考えることができます。従って、こうした制御物質をうまく活用することができれば、通常ならば完成まで非常に永い年月を要するはずの「あたり一面がコケ蒸した和風庭園造り」があっと言う間に急ごしらえできる術になるかもしれません。

教育内容

「高校生物」を学ばなかった人も巻き返し可能です!

 植物という生き物が相手ですから、生物が何たるかを理解していることは重要です。しかし、高校生物で習う「植物内在の生理活性物質」は各作用の羅列からそう離れておらず、本当に面白い(と私には思える)深奥の情報までは触れていません。そのため、未履修の人も興味さえ持ち続ければ今からでも追いつき追い越せる領域と思います。私の担当する講義の狙いは、植物を含む生物由来の物質(=天然物)の成り立ちの理解を促すもの、植物の生命現象への物質の関与を紹介するもの、制御物質の信号伝達の仕組みを解説するもの、そうした物質の動態を理解する上で精製や分析技術の重要性を伝えるもの等が含まれます。最近の研究室OB/OGの進路は、もちろん世間のご多分に漏れずコンサル業が一定数いますし、公務員や博士課程進学も選択される中、化学や素材のメーカーへの就職に根強い人気を感じます。植物の成長制御に関わる物質は押しなべて極微量で作用を示すものが多いことから、「微量物質を扱える技術」の習得はメーカーにおける開発・評価の部門では当然のこと、知財や営業、製造の部門にあっても他者との差別化を図れる「ご自分の武器」として役立つだろうと思います。

共同研究や産学連携への展望

ホルモン研究をベースに据えた植物の化学制御

 農薬の中には植物成長調整剤と称されるカテゴリーがあり、幾つかの植物ホルモンはこれに分類されます。研究室ではそれら植物ホルモンに加えて、微量で植物に何らかの影響を与える生理活性物質にも焦点を当てています。その研究のフローとしては、主に以下の4段階に分けて考えることができます。①植物に生じる現象の理解、②現象を生じさせる機構の理解、③機構上の制御点に影響を及ぼせる化合物の探索、④化合物を用いた現象の制御とより一層の理解。すでに現在知られている植物ホルモンについては、その生合成過程に加えて、受容機構やそれに続く主な信号伝達機構が明らかにされており、多くの育種植物の生育異常抑止や成長促進などの観点においてより精密な理解や解釈が可能な時代に入っています。複数の植物ホルモンからの信号交叉(=クロストーク)を経て調節される部分も多く知られるようになり、その制御点に焦点を当てた化合物探索なども行っています。この中には、比較的信号伝達経路上の終端部に位置すると思われる未解明の制御点に影響を及ぼす化合物も見出しており、こうした研究から新たな農薬のシーズ・新たな植物成長調整剤に発展することを期待しています。

研究概要ポスター(PDF)

キーワード

キーワード1  :  植物ホルモン、生理活性物質、信号受容、クロストーク、化学制御
キーワード2  :  集約農業、ロボット化、土壌汚染、垂直農業、植物工場