プロフィール

小川 哲弘

小川 哲弘

OGAWA Tetsuhiro

専攻 応用生命工学専攻 Department of Biotechnology
研究室 分子育種学研究室 Laboratory of synthetic biology
職名 助教 / Research Associate

一般の方へ向けた研究紹介

リボソームを操作して微生物機能を拡張する

 古来より、人類は微生物を巧みに利用し、その恩恵を受けてきました。身近な例としては、発酵食品や薬などの生産です。他にも、微生物を用いた環境浄化も試みられています。しかし、こうした利用は、しばしばストレスとなり、微生物の機能低下をもたらします。そこで、このストレスに対するメカニズムを理解し、得られた知見に基づいて微生物を「細工」すれば、我々の意のままに働いてくれる「スーパー微生物」が作り出せるかもしれません。では、微生物のどこを細工すればよいでしょうか?全ての生物には、タンパク質の工場である「リボソーム」が存在します。タンパク質合成は膨大なエネルギーを必要とすることから、細胞の機能はタンパク質合成、すなわちリボソームの状態と表裏一体です。そこで、私はこのリボソームに注目しました。リボソームは、ストレスなどにより機能を停止します。これは「リボソームの休眠」と呼ばれ、微生物に共通した現象です。そこで、これを上手に操ることで、微生物を我々の望み通りに「カスタマイズ」出来ると考えました。こうした経緯から、私は、リボソームの「活性化状態」と「休眠状態」とを人為的に操作するための基礎・応用研究を展開中です。これを通して、微生物が持つ可能性を拡張し、社会実装を目指します。

教育内容

「木も見て森も見る」幅広い視野を持つ人材育成を目指す

 私の研究は微生物学が中心ですが、研究全体としては、様々な分野にまたがっております。例えば、改良細菌のマウス腸管への定着性評価は、獣医学分野の研究者との共同研究です。他にも、腸内環境を模倣した「マイクロ流体デバイス」を利用した細菌の定着性定量化も行っており、これは生命工学分野になります。更に、リボソームの様々な状態における立体構造を明らかにし、リボソーム休眠のさらなる理解を目指しており、これは構造生物学的手法に基づいております。このように、私の研究は、様々な領域の研究者との「分野横断型」共同研究を展開しており、これが最大の強みであり、大きな推進力となっております。こうしたことから、異分野の研究室との積極的な交流を推奨しています。近年の研究は非常に細分化が進んでおり、とかく「木を見て森を見ず」となりがちです。私はこの「森」までみることに、ブレイクスルーがあると信じています。学生には、研究体系における自らの研究の位置や発展性などを理解してもらいたいと思います。そして、こうした経験を通して、幅広い視野を持つ人材へと成長してもらいたいと考えております。

共同研究や産学連携への展望

新しい視点から微生物を「カスタマイズ」してみませんか?

 「リボソームの活性調節を介した有用微生物の機能改変」を目指して研究を行っております。リボソームは「活性状態」と「休眠状態」とに分けられます。後者の休眠状態は、ストレスや長期培養により誘導され、微生物学の中でホットな分野ですが、未解明な点が多く残されております。私は、この「リボソームの休眠」の分子機構解明の過程で、これが細菌の機能操作に応用出来ることに気づきました。例えば、休眠リボソームを蓄積するように大腸菌を変異させると、細菌は固層面に定着しやすくなります。そこで、私は、この大腸菌変異株をマウスに接種することで、これがマウス腸管で安定的に長期間定着出来ることを実証しました。将来的には、プロバイオティクスなどの有用細菌の定着性強化へとつなげていきたいと考えております。逆に、リボソームの休眠を起こさない株は、休みなく物質を作り続けることから、物質生産能の向上につながると期待されます。これにより、未知物質の発見にもつながるかもしれません。微生物が持つ限りない能力の社会実装に向けた研究に興味のある企業の方々との産学連携を望みます。

研究概要ポスター(PDF)

キーワード

キーワード1  :  微生物、大腸菌、腸内細菌、タンパク質合成、リボソーム、ストレス応答、バイオフィルム、合成生物学
キーワード2  :  物質生産、有用微生物、プロバイオティクス、機能制御