プロフィール

岡田 茂

岡田 茂

OKADA Shigeru

専攻 水圏生物科学専攻 Department of Aquatic Bioscience
研究室 水圏天然物化学研究室 Laboratory of Aquatic Natural Products Chemistry
職名 准教授 / Associate Professor

一般の方へ向けた研究紹介

水中に棲む小さな「石油王」とも言える微細藻類が、「石油」を作る秘密を明らかにする

 化石燃料から排出される二酸化炭素による環境への悪影響が問題となっています。その対策の一つとして、今、生きている生物を用いたバイオ燃料の開発が進められています。バイオ燃料となる生物の中でも微細藻類(植物プランクトン)は、単位面積あたりの光合成による二酸化炭素の固定量が大きく、脂質含量が高い種類も多いため有望視されています。中でもBotryococcus brauniiという微細緑藻は、乾燥重量の数十パーセントにも達する大量の液状炭化水素を生産し、細胞外に分泌するため、バイオ燃料源として非常に魅力的です。ただし、エネルギー的に「高価」な炭化水素生産が足枷となり、他の微細藻類より増殖が遅いことが難点です。この問題を解決するためには、本藻種が「なぜ」、「どの様に」炭化水素を生産・分泌するかを知ることが大切だと考え、研究を行っています。現在までに各地から様々なB. brauniiの藻株を採集して培養し、それらが作るユニークな炭化水素関連化合物の化学構造を明らかにし、炭化水素の生産に関与する酵素の特定に成功しています。こうした研究を続けることで、より効率の良い培養法や、牛の乳搾りの様に藻体を殺さずに分泌された炭化水素だけを回収する技術の開発につながり、真に環境に優しいバイオ燃料生産が可能になると考えられます。

教育内容

水圏生物による「もの作り」の不思議を、化学と生物学から学ぼう

 水圏生物と人間生活との関わりというと、まずは「水産物」、「シーフード」という印象がありますが、バイオ燃料源や医薬・生化学資源等になる様なユニークな化合物を生産する生物も沢山います。こうした今まで食料として利用されて来なかった生物資源を有効に利用するためには、それらが生産する化合物の性状、また生合成機構に関する知識を得ることが重要です。こうした観点から、駒場では「海洋生物資源の特性と利用」や「海の生命科学」等の講義を通じて、水圏生物の特異な物質生産について興味をもって貰おうとしています。また、農学部および農学生命科学研究科では、「水圏天然物化学」、「水圏天物化学特論」等の講義を通じ、さらに詳しく学んで貰っています。ただ、講義名にある「化学」の観点だけではなく、水圏生物がユニークな化合物を生産する理由や、それらの化合物が他生物や環境に及ぼす影響等、「生物学」の側面を学んで貰うことも大切だと考えています。研究の魅力というのは、言葉の違う各国の研究者同士が、「science」という共通言語で仲良くなれることだと思っています。そのため、研究室に所属している日本人学生には、留学生や研究室に来訪した外国人研究者と積極的に交流できる機会を設ける様にしています。

共同研究や産学連携への展望

バイオ燃料生産微細藻類の多角的利用を目指した産学協創

 現在、化石燃料に代わる再生可能エネルギーの開発が切実に求められています。微細藻類によるバイオ燃料生産もその中の一つです。微細緑藻Botryococcus brauniiは大量の液状炭化水素を生産するため、バイオ燃料源として長年注目されてきました。本藻種による効率的な炭化水素生産を可能にすることを目指し、炭化水素の生合成に関与する酵素の特定を行ってきました。その結果、非常にユニークな炭化水素生合成酵素の存在を明らかにすることができました。一方、余りにも燃料としての炭化水素が注目されてきたためか、本藻種が他に例を見ない、様々なユニークな化合物も生産していることは意外と知られていません。それらの中には抗酸化性等の機能性が期待される化合物や、化学的に非常に安定で分解されにくいため、二酸化炭素の長期間の貯留に寄与し得る様な化合物もあります。本藻種に限らず、バイオ燃料の欠点の一つは単価が高いことですが、高付加価値の副産物を利用することで、その欠点を補うことができます。バイオ燃料としての利用のみならず、本藻種が持つ有用化合物生産のプラットフォームとしての価値の探索を協働できる様な企業との連携を望んでいます。

研究概要ポスター(PDF)

キーワード

キーワード1  :  微細藻類、植物プランクトン、バイオ燃料、炭化水素、脂質、色素、カロテノイド、生合成、酵素、イソプレノイド、炭酸ガス、培養
キーワード2  :  エネルギー問題、気候変動、食糧問題