プロフィール

高山 誠司

高山 誠司

TAKAYAMA Seij

専攻 応用生命化学専攻 Department of Applied Biological Chemistry
研究室 生物有機化学研究室 Laboratory of Bioorganic Chemistry
職名 教授 / Professor

一般の方へ向けた研究紹介

植物多様性を生み出す原理に迫る

 地球上の生命は、植物が太陽エネルギーをもとに作りだす酸素や食糧に依存して生きています。長年に渡り、実に多様な植物種が進化し、またそれぞれの種では個性溢れる個体が生み出されてきました。しかし、人間活動の活発化に伴い、この豊かな植物多様性が現在急速に失われつつあります。種というものを規定し、その種の多様性を維持しているのは、「種間不和合性」という有性生殖における仕組みです。また、種内の遺伝的多様性を生み出しているのは、「自家不和合性」という仕組みです。この2つの不和合性の仕組みを分子レベルで解くことが、植物の繁栄・多様性を支えてきた原理を理解し、人類のSDGsに繋がると考え研究を進めています。
 「自家不和合性」については、花粉と雌蕊の間で「自己」を認識して排除する仕組みと、「非自己」を認識して受け入れる仕組みなど、多様な仕組みが存在することを世界に先駆けて明らかにしてきました。「種間不和合性」についても、最近、「種」の認識に関わる分子が存在することを初めて明らかにしてきています。今後は、こうした仕組みの理解を基に、植物多様性の状況を的確に把握し、これを維持する方策の提言に繋げていきたいと考えています。

教育内容

現象の追跡 —生理活性物質化学の新展開ー

 生物有機化学は、生命現象の鍵を握る「生理活性物質」の発見を通して発展してきた学問です。新たな生理活性物質の発見は、生命の理解を飛躍的に深化させると共に、しばしば応用・利用され、人々の生活を豊かにします。当研究室は、これまで植物ホルモンのジベレリンを始め、様々な生物のホルモン、フェロモン、抗生物質・生長制御物質など実に様々な生理活性物質の発見に貢献してきました。単離精製・構造解析など従来の技術に加え、オミクス解析、ゲノム操作、ライブイメージング、AIなどの新技術もフル活用し、新たな生理活性物質の探索を続けています。この手段を選ばない新たな挑戦により、植物の自他識別や種間識別に関わる因子類や、それらのエピジェネティックな発現制御因子類など、従来の方法では得られなかった新規分子が次々と発見されてきています。また、これら発見は、植物における細胞間認識・情報伝達機構の解明を先導し、植物の基礎的理解に貢献しています。この言わば発見型の研究を通し、「モノ取りマインド」の育成を目指す点が当研究室の教育の大きな特徴です。この教育は、研究者として世界で活躍する卒業生の研究スタイルや、企業におけるシーズ探索研究などに生かされています。

共同研究や産学連携への展望

植物の革新的育種に貢献する有性生殖機構研究

 植物における有性生殖は、種子や果実など食糧生産の重要な場です。この有性生殖過程の基礎的理解は、穀類など主要食糧生産の増大や、新たな植物育種法の開発などに結びつく可能性を秘めています。実際、「自家不和合性」はアブラナ科野菜類のF1ハイブリッド育種に応用され、現在世界規模で栽培されているキャベツ、ハクサイ、ブロッコリー、ダイコンなどの葉根菜類は、すべて自家不和合性を利用して生産されたF1品種です。自家不和合性研究の知見は、効率的なF1品種の確立に生かされると共に、この性質を他の植物種に適用すればF1ハイブリッド育種の適用範囲が拡がることが期待されています。また、植物は極まれに「種間不和合性」を打破し、新たな植物種を産み出すことが知られています。有史以来の種間雑種の育種は、この不和合性を打破できる希少な組合せを経験と勘を頼りに見出すことで行われてきましたが、「種間不和合性」機構の基礎的解明は、論理に基づく新種育種を可能とすることが期待できます。現在、当研究室ではアブラナ科植物を対象として、種間不和合性に関わる因子類の人為的制御により、種間雑種形成の検討を開始しています。

研究概要ポスター(PDF)

キーワード

キーワード1  :  植物、有性生殖、多様性、自家不和合性、種間不和合性、生理活性物質、F1ハイブリッド、種間雑種、種子、育種、細胞間認識、情報伝達
キーワード2  :  多様性喪失、絶滅、地球環境、種の多様性、遺伝的多様性、食糧問題