プロフィール

渡邊 壮一

渡邊 壮一

WATANABE Soichi

専攻 水圏生物科学専攻 Department of Aquatic Bioscience
研究室 水産化学研究室 Laboratory of Marine Biochemistry
職名 准教授 / Associate Professor

一般の方へ向けた研究紹介

おいしいさかなを元気に育てて持続的に利用する

 水産物は重要な食資源の一つですが、その持続可能性は現在岐路に立たされています。持続可能な水産物利用に向けた一つの解決策として養殖が挙げられます。養殖は海面などの水圏を活用するため、陸上での食料生産を圧迫しない形で生産を行えることもあり、世界的には成長産業として位置づけられています。このように潜在的メリットの大きい魚類養殖ですが、まだまだ多くの課題が残されています。例えば魚を育てるための餌、病気、環境変動への対応などです。このような課題の多くは魚が外の環境と調和のとれた関係性を維持するため発達させてきた仕組みに深く関連しますが、実はまだ分かっていないことが多くあり、その性質も魚種により多種多様です。私はさかなの内と外との関係性を明らかにするために、特に魚類の浸透圧調節、栄養吸収、生体防御に着目して研究を進めています。これまでに魚類が浸透圧変化を感知する仕組みや消化管でのアミノ酸吸収メカニズム、魚類消化管内にあるバクテリアに対する物理的防御などを明らかにしてきました。また、細胞内浸透圧調節機構を利用してさかなをおいしくする技術も開発しました。さかなが生まれながらに持つこのような仕組みを最大限活用して、持続可能な食料生産システムとしての養殖技術の発展に貢献していきたいと考えています。

教育内容

「個」としての能力を高めると同時に、周りを巻き込む力を育む

 私は魚類の養殖技術の発展を目指して研究に取り組んでいますが、その内容だけを抜き出すと基礎研究の色合いが強いものが多くあります。これは「基礎のない応用は脆弱である」というとてもシンプルな原則に基づいていて、持続可能性を追求するためにはまず基礎を構築する必要があると信じているからです。これは人間にもあてはまることで、基礎をしっかり固めることが、個人の成長につながります。また、研究活動には他者との協働が必須です。どんなに基礎を固めて「個」を高めても、一人でできることはとても限られていて、現在私達の眼前にある諸問題には多くの人と協働して取り組む必要があります。学生の皆さんには大学や大学院での講義・実習および研究活動を通じて、「個」としての人間を高めるのと同時に、周りを巻き込む力を育んでもらうことを望んでいます。講義や実習、研究活動の中で学びの機会を積極的に提供しますが、皆さんにも能動的に学んでもらう必要があります。私も参画していますが、One Earth Guardians育成プログラムなど、自分の専門分野外の人たちと議論し活動する場への積極的な参加を期待します。

共同研究や産学連携への展望

「さかなの生物学」の理解を持続可能な魚類養殖技術開発につなげる

 私は持続可能な魚類養殖に資する研究を、特に魚類とそれを取り巻く環境との関係性を裏打ちする生物学的メカニズムに着目して進めています。世界的にみると養殖業は成長産業ですが、養殖技術には未だ解決されていない課題が数多くあります。その多くが環境変動による斃死や低成長など生物自体が持つ特性に起因するものです。また環境負荷の低減や魚病対策が持続可能性に重要な要素であるため完全閉鎖式陸上養殖に注目が集まっていますが、これは天然環境と全く異なる場での養殖になるため、長期的には予想に反する結果をもたらす可能性もあり、今一度生物学的観点からのアセスメントが重要となると考えています。これらの課題は大規模化・省力化により解決が難しく、今後養殖業の成長阻害要因としてさらに大きな比重を占めることも考えられます。私達は長年にわたり魚類の重要な生命維持機構であるイオン調節メカニズムについて知見を蓄積しており、イオン調節を担う鰓塩類細胞の解析に大きな強みがあります。また栄養吸収や生体防御など幅広い観点からも研究を進めており、共同研究ネットワークも活用してワンストップで広範な課題解決につながる方策を提案・開発できる体制にあります。

研究概要ポスター(PDF)

キーワード

キーワード1  :  動物、魚類、魚類生理学、生化学、環境適応、環境順応、生体防御、栄養吸収、消化、養殖
キーワード2  :  気候変動、食糧問題