プロフィール

八木 信行

八木 信行

YAGI Nobuyuki

専攻 農学国際専攻 Department of Global Agricultural Sciences
研究室 国際水産開発学研究室 Laboratory of Global Fishery Science
職名 教授 / Professor

一般の方へ向けた研究紹介

環境を保全する人間の英知をどう国際連携させればよいのか探求します

 農林水産物のマーケティングや、ツーリズムを利用した農村漁村の活性化などを研究しています。これを通じ、農林水産物を生み出す産地の価値を保全し、また生態系の価値を保全することを目指しています。
 最近の研究結果では、水産物の水揚げ現場でロットが揃わない珍しい魚などは産地から出荷されにくい傾向があること、また(そのためか)消費者が購入する水産物はこの20年で多様性が減少していることが分かりました。流通小売りチェーンがビジネスを効率化させるため、少量生産される多様な地魚ではなく、大量のロットが揃いやすい冷凍の輸入品を好んで扱っている背景が疑われます。しかしこの傾向が続けば、人々が自然の恵みを偏りなく利用する日本古来の伝統が失われてしまうことが懸念されます。
 このような研究結果は国際科学誌などで発表し、また政策決定の場にも情報提供をしています。2014年から18年までは生物多様性及び生態系サービスに関する政府間プラットフォーム(IPBES)専門家として同機関の文書作成に関与していました。また2019年からは国連食糧農業機関(FAO)世界農業遺産(GIAHS)プログラムの科学アドバイザリー会合(SAG)委員として世界農業遺産の認定を行う作業にも関与しています(2022年は議長)。農村漁村の維持活性化のためカンボジアでマイクロファイナンスの効果検証作業なども行っており、2019年にはカンボジア王国から友好勲章(Royal Order of Sahametrei)を授与されました。

教育内容

国際的な活躍を目指すための知識やスキルを伝授します

 私は本学農学部を卒業してまず農林水産省に入り、そこで国際捕鯨委員会(IWC)や世界貿易機関(WTO)の交渉などに従事しました。またアメリカで経営学修士(MBA)を取得し、さらに本学で博士(農学)を取得しました。2008年に大学に転職し、国際社会に貢献できる人材の育成に力を入れてきました。
 現在秋学期に2年生向けに開講している「生態系の中の人類」は毎年受講者が100人以上いる大人数の講義で、生態系保全の国際的な取組みをめぐる状況やその背景だけでなく、学生が国際的にキャリアを形成するためのスキルについても学びます。また大学院では英語の授業になりますが、経済学や経営学を基礎としながらも、理論と現場の乖離などを議論します。
 例えば農林水産業の現場では、変動の激しい自然環境に人間がどう適用していくかが伝統知として受け継がれています。つまり人間は自然に生かされている存在にすぎないとの前提に立った伝統知です。一方で都市部では、新技術をもって人間が自然環境の変化をどう押さえ込むか、といった考えが重要視されがちです。都市と農山漁村におけるこのような考え方の違いが、伝統的な農林水産業システムの維持を難しくさせ、ひいては地球規模の環境問題をも引起こす遠因になっています。このことは私だけの主張ではなく、2021年に東大で開催した「東京フォーラム」で、ハーバード大学のサンデル教授とも議論して意見の一致を見たところです。将来を担う学生に皆さんとも、このような議論を一緒にしたいと考えています。

共同研究や産学連携への展望

今、見えていないものでも、発展の可能性を見出します

 共同研究や産学連携は、世界農業遺産や日本農業遺産に関する分野が1つの候補です。地域には自然環境や、これが生み出す価値、さらにはこれを利用する人間組織などが存在します。このような地域の価値や資源(アセット)をどう活用すれば、地域に利益(フロー)をもたらすのかなどを一緒に考えることができます。
 2つめの候補は、風評被害対策に関する分野です。2011年に震災や原発事故からの復興を議論するため、福島県漁業協同組合連合会は福島県漁連復興協議会を立ち上げました。私はその当初から委員として福島県水産業の復興に立ち会ってきました。私たちの研究では、震災直後に高かった「応援買い」ニーズは年を経るごとに低下していき、一方で海産水産物や海水の放射性物質の計測値がほぼゼロになった現在でも「放射性物質への懸念」は年を経てもあまり減っていないことが判明しています。
 3つめの候補は、水産物の輸出先となる外国市場における嗜好調査です、これは過去複数回実施し、学術誌にも結果を発表しています。この経験を用いて貢献できる余地があると考えます。
 4つめは、スマート農漁業をめぐる共同研究や産学連携の可能性です。私は水産庁が立ち上げたスマート水産業に関する委員会などのメンバーとして、この分野の成功や失敗事例に知見を有しています。またAI技術を活用した水産養殖のコントロールや、市場の需要予測は、研究室で扱っているトピックでもあります。

研究概要ポスター(PDF)

キーワード

キーワード1  :  世界農業遺産、日本農業遺産、シーフード、マーケティング、風評被害、生態系、価値、スマート水産業、漁業、養殖業、風評被害、福島、OECM、捕鯨、WTO、国連、FAO、BBNJ
キーワード2  :  地域振興、国際協力、地球環境、ブルーカーボン、カーボンニュートラル、コミュニティ、デザイン、未来ビジョン、洋上風力発電、原発事故、食料安全保障、海洋保全