第四回放射能の農畜水産物等への影響についての研究報告会

-東日本大震災に関する救援・復興に係る農学生命科学研究科の取組み-

2012年9月8日(土) 13:00~17:00

Q&A及び補足

【高田先生】
Q. てきか(摘果)とはなんですか?
A. 摘果:果樹では、実を大きくする目的で、未熟果実の大半を取り除く作業を行います。これを摘果作業といい、モモの場合、満開後30日~70日ぐらいの間に2回に分けてその作業を行います。1回目を1次摘果、2回目を2次摘果といいます。満開後60日は2次摘果にあたる時期です。
Q. 果実中の放射性セシウム濃度は、昨年と比較して今年はどの程度減少しましたか?
A. 本試験では福島市で4分の1、伊達市で、3~4分の1、東京都で8分の1(暫定値)です。特定園地のみの結果ですので、すべての場所で同じことが起きているとは断定できません。なお、モモ以外の果樹の結果ですが、チェルノブイリに起因した、既存の研究でも、1作期後にはおよそ3~4分の1に低下するとの報告があります。
【吉田先生】
Q. 0.23μSv/hを1年に換算すると1mSvにはならないがどういう計算ですか?
A. この質問に対して、当日会場にて計算があわない主要な理由のみをお話しました。すなわち、野外活動時間を8時間、屋内を16時間として、屋内では野外の40%の被曝量となることを仮定して計算するという部分のみ述べました。
しかし、基準となっている1mSv/年は追加被曝線量ですので、上記の計算により得られた年間の被曝量1.2mSvから、年間平均の自然放射線の被曝量0.2mSvを差し引くことで、1mSvとなります。尚、この計算方法については以下の環境省除染情報サイトに説明があります。
http://josen.env.go.jp/osen/osen_05.html
Q. 空間線量率を計算する他のソフトウエアー等はありますか?
A. 会場での回答では、「農地の除染に活用できるようなソフトウエア」は残念ながらないと言う趣旨の回答を致しましたが、「類似の目的をもつ」ソフトウエアや数表は存在しますので、ご案内致します。

1.「文部科学省2008、ゲルマニウム半導体検出器を用いたin-situ測定法、放射能測定法シリーズ33」において、無限遠まで均一に放射性物質が土中に分布している場合の、地上1mでのフルエンス率や実効線量を計算するための数表が用意されています。セシウムについては、137と134の主要なエネルギーのγ線についてデータが提供されています。土中での鉛直分布(深さ方向の広がりを表すパラメータ)を指定すれば、面積当たりの土壌の濃度(Bq/m2)と線量率の関係が計算できます。

2.日本原子力研究開発機構 原子力基礎工学研究部門では、「除染効果評価システム 」というソフトウエアーを公開しています。
http://nsed.jaea.go.jp/josen/
3次元放射線輸送コードを用い、地表面の汚染状況から空間線量率を計算します。このソフトウエアーでは、エクセルのセルを用いて地表の汚染状況や傾斜情報などを入力すると、その範囲での空間線量が計算できるようになっており、宅地などの広域除染のツールとして利用できます。地表面への覆土については、対応していますが、放射能の土層での鉛直分布をパラメータとして入力するようにはなっていないため、農地除染のような鉛直分布を改変したときの推定には現在のところ対応していないようです。

【二瓶様】
Q. 福島県で実施しているモニタリング調査での検出限界を教えてください。
A. 会場でのお答えに間違いがありましたので、以下の通り訂正させていただきたいと思います。
農産物モニタリングにおける検出限界は、
2012年4月以前 134Cs、137Cs各々10Bq/kg以下(併せて20Bq/kg)
2012年4月以降 134Cs、137Cs各々5Bq/kg以下(併せて10Bq/kg)
を目標に行っております。しかし、実際にはそれより高いものがある場合もございます。
【田野井先生】
Q. 講演中に質問で「質問用紙(兼感想記載用紙)」を提出してしまうと、最後に感想が書けないのではないですか?
A. 講演中に「質問用紙(兼感想記載用紙)」を提出される場合には、挙手により係員が回収に参ります。その時に新しい用紙をお渡しいたしますので、何度でも質問していただけますし、最後にご感想を記載いただけます。
また、ツイッター(twitter)でも質問を受け付けておりますので、紙に書いて提出せずとも、簡単に質問していただけます。その際には専用のタグをお知らせいたしますので、必ずタグも記載ください。
Q. 流通されない自家消費作物はどのように対策したらよいでしょうか?
A. 家庭菜園等を想定していらっしゃるかと思います。栽培方法による放射性セシウム低減策については多くの指導レポートがあります。対策は主に、深く耕す、カリウム肥料をしっかりいれる、の2点であると思います。また、おなじ種類の作物が自分の地域でどのような放射性セシウム濃度であるか参照するのもよいのではないでしょうか。それでも心配でしたら、一度測定されることをお勧めいたします。
Q. 発表スライドをHPに掲載していただけませんでしょうか?
A. 本報告会で発表されるデータがひとり歩きしたり、改竄された上で広まったり、といったリスクを下げるため、現在は動画にて公開しているところです。しかしご要望が多くございますので、可能なものからHPで公開するようにしたいと考えています。
【小林研究員】
Q. 水+土壌で穂までの試験をすると分布はどうなると考えられるか?
A. 今回の実験で見られた放射性セシウムの分布の違いは、イネ体内のカリウムの転流量の違いによるところが大きいと考えています。カリウムが豊富に与えられているイネでは、転流量が少なく、一度下位葉に分布したカリウムがそこに留まる割合が高くなります。一方、カリウムが欠乏すると、イネ体内では成長を維持するために、一度下位葉に分布したカリウムを新しい葉や穂に移動させます。この流れに乗って、放射性セシウムも新しい葉や穂に積極的に移動したものと考えられます。
  ご質問の、土壌の有無による、放射性セシウムの体内分布への影響ですが、上記のようなメカニズムを主要因と仮定すれば、土壌が存在していたとしても、イネにカリウムが豊富に与えられれば(可給態カリウムが多ければ)、放射性セシウムは古い葉に多く分布すると考えられます。
 ただし、土壌の中に、カリウムの転流に影響を及ぼすような別の要素が含まれている場合は、この限りではないでしょう。
Q. 現場を意識した、代かきをしっかりした場合としない場合の効果が知りたい。
A. 検証実験で重視しているのは、検証対象とする要素(今回の研究発表ではK濃度)が、十分把握できて制御可能なものであることです。この点、ご質問の「代かき」というものには、複数の要素が含まれていると考えられ、すぐに検証実験をするのは難しいと思われます。もしも、「代かき」に含まれる要素のうち、放射性Csの土壌分布、あるいは、イネへの放射性Csの与え方、という要素にご関心がおありでしたら、いくつか先行研究がありますので、そちらを参考にしていただければと思います。
  研究例;Choi et al. (2011) Transport behavior and rice uptake of radiostrontium and radiocesium in flooded paddy soils contaminated in two contrasting ways (doi:10.1016/j.scitotenv.2011.09.063)
回答教員一覧
高田 大輔 附属生態調和農学機構・助教
吉田 修一郎 生物・環境工学専攻・准教授
二瓶 直登 福島県農林水産部・農業支援総室・環境保全農業課・主査
田野井 慶太朗 附属放射性同位元素施設・准教授
小林 奈通子 附属放射性同位元素施設・学術振興会特別研究員
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