発表者
野田 陽一 (東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命工学専攻 助教)
依田 幸司 (東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命工学専攻 教授)

発表概要

ゴルジ体で働く幾つかのマンノース転移酵素は、小胞体から特異的に選択され運び出されるが、それにはSvp26という私たちの発見した膜タンパク質が働いていることを明らかにした。

発表内容

図1. 小胞体から特定のマンノース転移酵素がSvp26により特異的に運び出される。
①小胞体膜に、細胞質から活性化された5種類のコートタンパク質(Sar1, Sec23, Sec24, Sec13, Sec31)が小胞体膜に結合し、膜を袋状に変形させるとともに、中に移行させるタンパク質を特異的に積み込む。このとき、マンノース転移酵素(Ktr3, Mnn2)はSvp26に連れられて積み込まれる。②最終的に小胞体を離れたCOPII小胞は、ゴルジ体に向けて内容物を運ぶ。小胞体に常駐する膜タンパク質(例えばSec61)は、この小胞に取り込まれずに残留する。

タンパク質は、リボソームで合成されて構造を整えたのち、正しい場所に移行することにより、初めて正常な機能を果たします。なかでも分泌型と呼ばれる一群のタンパク質は、まず膜を越えて小胞体と呼ばれる袋の中に入り、ゴルジ体を経由して、細胞外に分泌されたり、特定の細胞内常駐部位に運ばれたりします。ゴルジ体は、これらのタンパク質を糖鎖で修飾したり、正しい大きさに切断したり、行先を仕分けたりする機能を担います。ゴルジ体で働く糖転移酵素が数多い分泌型タンパク質の中からどのように選び出されるか、これまで明らかでありませんでした。私たちが精製したゴルジ体から発見していた新しい膜タンパク質Svp26が、Ktr3, Mnn2, Mnn5という特定のマンノース転移酵素と小胞体で結合して、輸送のためのCOPII小胞(注1)に選択的に積込むアダプターであることを、最近の研究で明らかにしました。

Svp26をもたない酵母変異株では、ゴルジ体で行われるタンパク質糖鎖の修飾が異常になることが分かっていました。まず、この変異株で、上記のマンノース転移酵素の多くがゴルジ体に運ばれず、小胞体に蓄積してしまうことを、免疫染色した酵素タンパク質の顕微鏡観察や細胞内容物の分画により、明らかにしました。細胞膜を溶かしてタンパク質を特異的に免疫沈降する実験で、これらのマンノース転移酵素とSvp26が結合する性質があることが分かりました。小胞体からタンパク質を運び出すCOPIIという小胞の形成を、無細胞実験系で再現して調べると、Svp26そのものが効率よくCOPII小胞に取り込まれる膜タンパク質で、これと結合するマンノース転移酵素も、Svp26が共存するときのみ効率的に同じ小胞に取り込まれました。すなわち、Svp26は小胞体にある多数のタンパク質の中から、一群のマンノース転移酵素を結合性によって選別し、自らと一緒にゴルジ体に送り出すアダプターの役目をしていたのです。

マンノース転移酵素は、細胞質にある部分・膜に埋まった部分・膜で囲まれた内側にある部分がつながった、Ⅱ型と分類される一回膜貫通型の膜タンパク質です。小胞体からの搬出がSvp26により促進されるマンノース転移酵素と、そうでないマンノース転移酵素のあいだで、これらの部分領域を交換したタンパク質の性質を調べることにより、Svp26が結合する認識領域は、膜で囲まれた内側にあたる領域であることも分かりました。この領域はマンノース転移酵素の活性を担う領域でもあることから、Svp26との結合は、タンパク質の選別の他に、酵素活性を制御する働きもある可能性が高くあります。Svp26をもたない酵母変異株の示す糖鎖修飾異常は、この制御が失われた結果と予想されます。

発表雑誌

<表題>
Svp26 Facilitates Endoplasmic Reticulum to Golgi Transport of a Set of Mannosyltransferases in Saccharomyces cerevisiae.
<著者名>
Yoichi Noda and Koji Yoda
<公表雑誌>
Journal of Biological Chemistry, 285巻 (20号), 15420ページ-15429ページ (2010年3月17日電子版掲載、2010年5月14日刊行。)

問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科
応用生命工学専攻 分子生命工学研究室
教授 依田 幸司
Tel: 03-5841-8138
FAX: 03-5841-8008
E-mail: asdfg@mail.ecc.u-tokyo.ac.jp

用語解説

注1 COPII小胞

小胞体にあるタンパク質をゴルジ体へ運び出す小さな膜小胞。細胞質から5種類のコートタンパク質が小胞体膜に結合し、膜を袋状に変形させるとともに、中に移行させるタンパク質を特異的に積み込む。最終的に小さな膜小胞となって小胞体を離れ、次いでゴルジ体に融合して内容物をゴルジ体に受け渡す。幾つかの膜タンパク質は、コートタンパク質と直接結合することにより選別されることが分かっているが、直接に結合しない多くのタンパク質が選別されるには、別の機構を考えねばならない。