カイコの幼虫は孵化後に4回の幼虫脱皮(眠=みん)を経て5齢へ成長してから繭を作り、そのなかで蛹へ変態します。「2眠蚕(にみんさん)」(mod)は、未熟な3齢幼虫の段階で繭を作り蛹化してしまう突然変異体です(注1)。本研究は、この変異体では幼若ホルモン(注2)の合成酵素の遺伝子に異常があり、幼若ホルモンをまったく作れないために早熟変態が起きることを明らかにしたものです。なお、本研究は(独)農業生物資源研究所をはじめ複数の研究機関と共同して実施されました。
カイコの幼虫は通常、4回脱皮を行なって5齢幼虫となった後、繭を作って蛹へと変態します。ところが、「2眠蚕」(mod)という突然変異遺伝子をホモ接合(注3)で有するカイコは、幼虫脱皮を2回または3回しか行いません。その結果、通常のカイコに比べて極めて小さい成虫(蛾)が羽化します(図1)。本研究はmodの原因遺伝子を特定し、「2眠蚕」が4齢や5齢への幼虫脱皮をしない理由を解明しました。modの原因遺伝子はチトクロームP450(注4)の1種であるCYP15C1をコードしており、幼若ホルモンの生合成に必須の遺伝子でした。
幼若ホルモンは、変態を抑制して幼虫脱皮を続けさせる働きをする昆虫ホルモンです。幼若ホルモンは、頭部に存在するアラタ体という器官において、ファルネシル2リン酸→ファルネセン酸→幼若ホルモン酸→幼若ホルモンという経路を経て合成されます。CYP15C1は、2番目の矢印、すなわちファルネセン酸のエポキシ化を触媒する酵素です。mod変異体ではCYP15C1の機能が失われ、幼若ホルモンを作ることができないため、体が小さいまま蛹や蛾になってしまうことが分かりました。
この成果は、昆虫ホルモンの研究に大きな進歩をもたらすと期待されるだけでなく、蚕糸の改良や害虫の制御などの応用にも貢献できる可能性があります。
本研究は、生研センター基礎研究推進事業、科研費(若手研究(A) ・基盤研究(A)・新学術領域研究)、農水省委託プロジェクト、および文科省ナショナルバイオリソースプロジェクトの支援を受けて実施されました。
詳細情報((独)農業生物資源研究所によるプレスリリース)
http://www.nias.affrc.go.jp/
図1.普通のカイコと「2眠蚕」変異体
(左)通常のカイコの繭と成虫。幼虫が5齢まで成長して変態するため、大きな蛹・成虫になる。
(右)「2眠蚕」変異体の繭と成虫。幼虫が3齢あるいは4齢までしか成長できないため、小さな蛹・成虫になってしまう。体は小さいが、生殖能力は正常である。
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独立行政法人農業生物資源研究所 昆虫科学研究領域 昆虫成長制御研究ユニット
ユニット長 篠田徹郎
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東京大学大学院農学生命科学研究科 生産・環境生物学専攻 昆虫遺伝研究室
教授 嶋田 透
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Fax: 03-5841-8011
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