動植物の双方に存在し、ユニークな構造をもつTPC (Two Pore Channel)ファミリーと呼ばれるイオンチャネルタンパク質に着目し、イネのOsTPC1タンパク質が、病原菌由来の感染シグナル分子を感知した直後にカルシウムイオンを細胞内に輸送する過程や、カルシウムイオンを介して抗菌化合物の合成を制御する過程において、重要な役割を果たすことを発見しました。またこのタンパク質が、イネの細胞膜に存在し、カルシウムイオンを輸送する能力を持つことを初めて見出しました。
植物も病原体の感染を感知し、撃退する、動物とは異なる高度な免疫系を発達させていることが明らかにされつつあります。こうした成果に基づき、さまざまな植物バイオテクノロジー技術を駆使して、植物の耐病性を高める技術開発が進められようとしています。しかし、植物が病原体の感染をどのように感知し、どのように情報を処理・伝達しているかについては、まだ多くの謎が残されています。
生物の情報の処理・伝達の過程では、カルシウムイオンが重要な役割を果たすことがよく知られています。動物では、細胞内外でカルシウムイオンを運ぶ、カルシウムチャネルタンパク質が数多く同定され、機能が研究されています。植物が病原体の感染を感知する過程でもカルシウムイオンが重要な働きをすることは、これまでに同研究グループを始めとする研究で明らかにされていました[1]が、カルシウムイオンの輸送に関わる分子はほとんど未解明でした。
今回の研究により、重要穀物であるイネが、病原体の感染を認識し抗菌性を持つ化合物を合成する過程において、動植物に広く存在しユニークな構造を持つカルシウムチャネルが重要な役割を果たすことが突き止められました。この成果は、将来的にイネを初めとする植物の免疫力を高め、病気への耐性を付与する技術を開発する上で、重要な一歩となることが期待されます。
イネに感染する病原菌(糸状菌=カビ)由来の感染シグナル分子(タンパク質)をイネの細胞が感知すると、その情報が処理・伝達され、抗菌化合物(ファイトアレキシン)の合成などの免役応答が誘導されます。この情報を伝える上で、細胞外から細胞内にカルシウムイオンが輸送され、細胞内のカルシウムイオンの濃度が一時的に高くなることが重要な意味を持ちます[1]。
今回の研究で、同研究グループは、動植物の双方に存在し、ユニークな構造をもつTPC (Two Pore Channel)ファミリーと呼ばれるイオンチャネルタンパク質に着目し、イネのOsTPC1タンパク質が、病原菌由来の感染シグナル分子を感知した直後にカルシウムイオンを細胞内に輸送する過程や、カルシウムイオンを介して抗菌化合物の合成を制御する過程において、重要な役割を果たすことを発見しました。またこのタンパク質が、イネの細胞膜に存在し、カルシウムイオンを輸送する能力を持つことを初めて見出しました。
植物の免疫システムにおいて、カルシウムイオンは決定的に重要な役割を果たすことが明らかになっていましたが、その輸送機構はほとんど未解明でした。今回、その過程に関与する分子の一つが解明されると同時に、植物が病原体に打ち勝つために合成する抗菌性化合物の合成制御機構の一端が解明されました。今回の研究成果は、イネが病原体の感染を感知して撃退する免疫システムのメカニズムを解明すると共に、耐病性を高める技術を開発する研究に貢献できると期待されます。
[1] 来須孝光、朽津和幸 (2011) 植物の免疫制御機構-情報素子としてのカルシウムイオンの役割- 科学フォーラム 322:44-49.
東京大学大学生物生産工学研究センター環境保全工学研究室
助教 岡田憲典
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