発表者
高橋太郎 (東京大学大学院農学生命科学研究科 農学国際専攻 助教)

発表のポイント

発表概要

東京大学大学院農学生命科学研究科の高橋太郎助教は、今まで知られていなかった新古典派経済成長理論における資本の成長経路を、一次近似法により発見しました。また、この成長経路を解析することにより、各国の経済が持つ特性によって、大きな経済成長効果を持つ資本の種類が異なることを証明しました。これらの成果は被援助国の実態に合わせた国際援助政策の立案に応用できるため、農業援助を始めとする我が国の国際援助の効率化に貢献することが期待されます。研究成果は2012年11月20日付けで国際誌PLOS ONEに発表されました。

発表内容

経済成長理論とは、各国における経済成長の過程を数学的に表そうとする経済学の理論で、政府や中央銀行が望ましい財政政策・金融政策・援助政策等の経済政策を立案しようとする際に活用されています。この理論は、技術革新の源泉が当該経済の外にあると仮定する新古典派経済成長理論と、当該経済の中にあると内発的経済成長理論の二つに大きく分類されます。

新古典派経済成長理論においては、経済の中にある資本を物的資本と人的資本の二種類に分割して分析する手法が1990年代に考案され (Mankiw et al, Quarterly Journal of Economics 107: 407-437) 、今日までに1,500 本以上の論文にて引用されるなど、現在でも幅広く応用されています。これらの応用研究においては、経済が物的資本と人的資本を組み合わせて生み出した、国民所得の成長経路 (国民所得を時間の関数として表したもの) に関して、理論と歴史的な統計が合致するかという点を中心に議論が行われてきました。

しかしながら、新古典派経済成長理論における物的資本と人的資本それぞれの成長経路(資本の量を時間の関数として表したもの)は、その算出の基になる物的資本と人的資本それぞれの時間微分方程式 (資本の単位時間当たりの変化を表した式) の形が複雑なため、導出が困難とされ、今まで知られていませんでした。このため、各時点における、二種類の資本を結合した結果としての国民所得の絶対量はわかっても、各資本の絶対量はわからず、従って、経済成長を助けるためにはどちらの種類の資本を強化させればよいかもわかりませんでした。

高橋助教は、物的資本と人的資本それぞれの時間微分方程式に、一般的な近似法であるテイラー展開を適用することで、これらの二式が解の存在が知られている一対の連立線形微分方程式に変形できることに着想し、近似的ながら、物的資本と人的資本それぞれの成長経路の導出に成功しました。また、これらの成長経路を数学的に解析することにより、各国の経済が持つ特性によって、大きな経済成長効果を持つ資本の種類が異なることを証明しました。

これらの成果は、立地・人口・技術等の経済特性が違う各国は、それぞれどのような形の資本注入をするとより効率的に経済成長できるのかを分析する目的に応用できます。これにより、被援助国の実態に合わせた国際援助政策の立案が可能になるため、農業援助を始めとする我が国の国際援助の効率化に貢献することが期待されます。

発表雑誌

雑誌名
PLOS ONE, 7(11): e49484. (2012年11月20日掲載)
論文タイトル
Capital growth paths of the neoclassical growth model
著者
Takahashi T
DOI番号
10.1371/journal.pone.0049484
アブストラクト
http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0049484

問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科 農学国際専攻 国際環境経済学研究室
助教 高橋太郎
E-mail: ataro@mail.ecc.u-tokyo.ac.jp