植物の主要な窒素源である硝酸はシグナル分子としても働き、硝酸同化に関わる酵素遺伝子や様々な制御タンパク質遺伝子の発現を直接的に制御して、植物の生長や物質生産を調節しています。このような硝酸によって引き起こされる応答を司る因子はNIN様転写因子(注)であることを発見しました。硝酸はシグナル分子としてNIN様転写因子を活性化し、この活性化したNIN様転写因子が様々な硝酸応答遺伝子の発現を促進することを明らかにしました。この発見は植物の窒素利用効率を向上させ植物の物質生産能力を強化することにつながります。
図1 NIN様転写因子による硝酸応答の制御のモデル図 (拡大画像↗)
植物は土壌中の窒素を吸収・同化し、タンパク質や核酸など窒素原子を含むさまざまな生体分子を生合成して生長しています。土壌中の窒素含量は高い農業生産を得るためには十分ではないため、農業では大量の窒素肥料の施肥を行なっています。しかし、大量の窒素肥料の使用は河川や海の富栄養化を引き起こし、また酸性雨の元凶ともなることから、植物の窒素利用効率を高めることが重要な課題となっています。植物は窒素を効率よく吸収して活用するためのシステムを持っています。植物の主たる窒素源である硝酸は窒素同化に用いられるだけでなく、このシステムを制御するシグナル分子としての重要な役割を担っています。硝酸は、窒素同化に関わる遺伝子や窒素吸収と利用の調節に関わる遺伝子など多数の遺伝子の発現を変化させて、窒素利用システムを調節しています。硝酸シグナルによる制御は植物の窒素利用の鍵を握ると考えられてきましたが、その実体はまったく不明でした。今回、硝酸に応答した遺伝子発現の制御を行なっているタンパク質はNIN様転写因子であることを発見しました。窒素シグナルに応答してNIN様転写因子は活性化され、硝酸還元酵素遺伝子や亜硝酸還元酵素遺伝子などを含む多数の遺伝子の促進することによって、植物の硝酸応答を司っていることを明らかにしました。さらに、このNIN様転写因子の機能を阻害すると硝酸同化と調節機構の両方が大きく影響を受け、生長が著しく低下することも見出しました。この発見は、今後、NIN様転写因子の活性を調節することにより植物の窒素利用を向上させることに結びついてゆくことが期待されます。
東京大学生物生産工学研究センター 植物機能工学部門
准教授 柳澤修一
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