セルロースは地球上に最も多く存在する生物由来資源ですが、その一方で結晶性が高く、分解されにくいという性質が変換利用を困難にしています。本研究では、結晶性セルロースを効率良く分解できるセルラーゼには、セルロースの綻(ほころ)びを認識して掴む機能が備わっていることが明らかとなりました。
セルロースは植物細胞壁の主要成分であり、地球上に最も多く存在する生物由来資源です。その為、セルロースをアルコールや有機酸に変換し様々な物質を製造する研究が世界的に行われています。しかしセルロースは強固に分子鎖が集まった結晶構造を有しており、植物細胞壁の強度の源であるため、酵素による分解効率が低いことが問題となっています。
カビの1種であるTrichodarma reeseiは、このような植物細胞壁のセルロースを分解する能力が非常に高いことが知られており、さらにこのカビが生産する主要なセルロース分解酵素(TrCel7A)は結晶性セルロースを効率良く分解できる事がわかっています。近年、東京大学とフィンランド国立技術研究所(VTT)との共同研究で、本酵素の40番目のトリプトファン残基(W40)をアラニンに変異させると、セルロース分解能が著しく低下する事が発見されました。しかしこのトリプトファン残基が実際にどのような役割をしているのかはこれまで明らかになっていませんでした。
そこで私達は、フィンランド国立技術研究所および東京工業大学と共同研究を行い、セルロース分解活性と吸着能力の比較及び分子動力学シミュレーション注1を用いた解析によって、このトリプトファン残基がセルロースの末端をしっかりと認識することで、結晶性セルロースの分解をスタートさせることをはじめて明らかにしました。本研究によって、セルロース分解酵素がどのように結晶性セルロースを分解しているのか分子レベルでの理解が進み、より効率良く結晶性セルロースを分解できる酵素の作製に役立つと考えられます。
東京大学大学院農学生命科学研究科 生物材料科学専攻 森林化学研究室
准教授 五十嵐 圭日子
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