発表者
古橋賢一 (東京大学大学院農学生命科学研究科 生物・環境工学専攻 日本学術振興会特別研究員)
佐賀清崇 (東京大学大学院農学生命科学研究科 生物・環境工学専攻 助教)
岡田茂 (東京大学大学院農学生命科学研究科 水圏生物科学専攻 准教授)
芋生憲司 (東京大学大学院農学生命科学研究科 生物・環境工学専攻 教授)

発表概要

微細緑藻Botryococcus brauniiは炭化水素を大量に生産するため、バイオ燃料資源として期待されています。これまでこの藻体から高収率で炭化水素を回収するためには、乾燥や加熱などの前処理を伴う溶媒抽出が必要でした。今回我々は海水を用いて培養することで、エネルギーを大量消費する前処理工程を行わずに大部分の炭化水素を溶媒抽出することに成功しました。

発表内容

図1. Botryococcus brauniiの細胞およびコロニーの光学顕微鏡像 (拡大画像↗

図2. Botryococcus brauniiの培養 (拡大画像↗

図3. 左(Chu13培地)、右(1/4海水培地)培養藻体をヘキサンと混合した様子 (拡大画像↗

図4. 本研究成果によるBotryococcus brauniiからの炭化水素抽出プロセス (拡大画像↗

化石燃料の枯渇や地球温暖化対策として、単位面積当たりのオイル生産性が高い微細藻類に次世代のバイオ燃料資源として注目が集まっています。

通常、オイル生産性微細藻類は細胞内にオイルを蓄積させますが、本研究で用いたBotryococcus braunii (図1、図2)は、乾燥重量の数十パーセントにも及ぶオイルを個々の細胞を繋いでいる細胞間マトリクスに蓄積させます。またこのオイルは酸素原子を含まない発熱量の大きい重油相当の炭化水素です。B. brauniiはこれらの特徴をもつため、他の微細藻類と比較してオイルの抽出・変換・精製工程におけるエネルギーやコストの削減が期待されています。炭化水素の蓄積の場である細胞間マトリクスは非常に弾性に富んでいるため、圧搾等による物理的な回収が難しく、また有機溶媒も炭化水素に容易に接触できません。このため、高効率でB. brauniiから炭化水素を得るには、加熱もしくは乾燥という前処理工程後の溶媒抽出が必要でした。

今回我々は海水を1/4濃度に希釈した汽水培地で、淡水性であるB. brauniiを長期間培養することにより、藻体を加熱・乾燥することなく、湿藻体に直接有機溶媒を混合するだけで、炭化水素の大部分を回収できることを発見しました(図3、図4)。この発見は、前処理で藻体を殺さずに炭化水素を回収し、同藻体を再利用して炭化水素を再生産させるミルキングという技術に繋がる可能性をもちます。ミルキングを用いて培養槽内でB. brauniiから炭化水素のみを回収しつつ高い藻体濃度を維持すれば、コンタミネーション(競合する微細藻類や雑菌の繁殖)を防ぐことが可能となるかもしれません。

本研究は、東京瓦斯株式会社からの助成を受けて行われました。

発表雑誌

雑誌名
「PLoS ONE (2013) Vol.8, Issue.6, e66483」(無料公開)
論文タイトル
Seawater-Cultured Botryococcus braunii for Efficient Hydrocarbon Extraction
著者
Kenichi Furuhashi, Kiyotaka Saga, Shigeru Okada, Kenji Imou
DOI番号
10.1371/journal.pone.0066483

問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科 生物・環境工学専攻 生物機械工学研究室
教授 芋生憲司
Tel: 03-5841-5359
Fax: 03-5841-8173
E-mail: aimou@mail.ecc.u-tokyo.ac.jp
Web: http://www.bme.en.a.u-tokyo.ac.jp/index.html