発表者
二瓶 直登(東京大学大学院農学生命科学研究科 附属放射性同位元素施設/生物環境工学専攻 准教授)
田野井 慶太朗(東京大学大学院農学生命科学研究科 附属放射性同位元素施設/応用生命化学専攻 准教授)
中西 友子(東京大学大学院農学生命科学研究科 附属放射性同位元素施設/応用生命化学専攻 教授)

発表のポイント

◆東京電力福島第一原子力発電所事故以後、福島県で実施されている玄米中の放射性セシウムの検査について、事故後3年間のデータを解析しました。

◆事故があった2011年度(予備、本調査:ともに抜き取り調査)の調査では、現在の一般食品中の放射性セシウム基準値(100Bq/kg)を超えたのは全体の0.8%でした。特に高い濃度を示した地域で産出された米を食したと仮定した場合、年間の内部被ばく量は0.05mSvと算定しました。これは、国が目標とする内部被ばく量(1mSv/年)より大幅に低いことが分かりました。

◆2012年度からは福島県で産出される全部の米の検査が実施され、2012年度基準値を超えたのは0.001%(10,338,000袋中71袋)、2013年度は0.0003%(11,001,000袋中28袋)でした。尚、2014年産は現在までに基準値を超える米はありませんでした。

◆全量全袋検査は、全ての生産物の放射性物質検査を実施して流通させる世界初の取組みで、米の安全性の確保のみならず風評対策の効果があると考えられます。

発表内容

図1 福島県地域別の米のモニタリング検査結果 (a)2011年、(b)2012年、(c)2013年
(拡大画像↗)

図2 各地域(旧市町村単位)別の米の最高値 (a)2011年、(b)2012年、(c)2013年
福島県内で公表されている市町村や旧市長村のデータを測定された米の放射性セシウム濃度の最高値を25Bq/kg以下、25Bq/kgから100Bq/kg以下、100Bq/kgから500Bq/kg以下、500Bq/kg以上に分類。(拡大画像↗)

2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所事故(以下、原発事故)後、福島県で生産された農林水産物はその安全性を確認するため、「農林水産物に係る緊急事環境放射線モニタリング(以下モニタリング検査)」を行っています。農産物の中でも米は福島県の農業産出額が最も多い品目でもあるため、他の農作物よりきめ細やかな対策と検査を実施しています。本論文では、原発事故後3年間の膨大なデータを福島県内の地域別にとりまとめることで、これまでに取り組んできた安全な米生産のための対策や検査方法の効果について議論しました。

事故があった2011年は、警戒区域や避難指示が出ている地域に加え、土壌中の放射性セシウムが5,000Bq/kg(深さ15cm平均) を超えた地域では、米の作付けを見合わせるよう関係自治体に指示がありました。また、収穫後のモニタリング検査では、通常は収穫物1品目につき1市町村3点であるところ、米の場合は収穫前に予備調査をした上に、本調査でも地点を大幅に増やして検査を実施しました。さらにこの検査で検出限界値以上の値が測定された地域ではさらに詳細な検査も実施されました。その結果、予備調査と本調査を合わせて(サンプル数=1624)100Bq/kg以上の米の割合は、福島県全体では0.8%でした。地域により偏りがあり、最も検出割合の多い地域で4.4%でした。それでも、当該地域で産出された米を食することの内部被ばく概算は0.05mSv/年となり、国の基準値(1mSv/年)より大幅に低いことが明らかとなりました。

2012年以降は、福島県内で生産された全ての米(約36万トンを想定)を対象として検査(以下、全量全袋検査)を実施しています。全量全袋検査を実施するため、新たにベルトコンベア式放射性セシウム濃度検査器(以下、ベルトコンベア式検査器)を各メーカーが開発しました。このベルトコンベア式検査器は、30kg袋の米を1分間に2~3袋の速度で食品衛生法に定める放射性セシウムの基準値(100Bq/kg)以下であるかどうかを判定することができます。福島県ではベルトコンベア式検査器を県内に約200台、各地域に設置しました。検査終了時には、検査済を記したシールとともに各米袋に個別の識別番号が付加され、ホームページで、地域ごとの米の検査結果とともに、個別の結果についても確認できます。2012年の全量全袋検査の結果(サンプル数=10338291)、100Bq/kgを超えたものは0.001%(71袋)、2013年(サンプル数=11,001,000)は0.0003%(28袋)でした(2014年産のものについては、2015年2月現在、検査を10,898,00点実施し、100Bq/kg超えはなし)。2012年以降、米の放射性セシウム濃度が大幅に減少したのは、半減期が2年のセシウム134の減衰の他、次の理由が考えられます。1.土壌中の粘土成分へセシウムが固定された。2. 土壌中の交換性カリウム含量を指標とした施肥や土壌の表層と下層を反転させる反転耕等、土壌改良対策が徹底的に実施された。3. 一部の地域で作付けが制限された。

これら詳細な検査は、消費者に安心できる米の出荷体制を整えることを目指して行われたもので、とくに全量全袋検査は、生産された穀物の全てにおいて放射性物質検査を経た後に流通させる世界初の取組みであると言えます。今後は、作付けが制限されていた地域においても営農が再開されるケースが増えていくため、全量全袋検査を継続して米の安全性を確保していくとともに、風評被害対策にも検査結果を正確に伝える必要があると考えられます。

発表雑誌

雑誌名
「SCIENTIFIC REPORTS」
論文タイトル
Inspections of radiocesium concentration levels in rice from Fukushima Prefecture after the Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Plant accident
著者
Naoto Nihei, Keitaro Tanoi and Tomoko M. Nakanishi
DOI番号
10.1038/srep08653
論文URL
http://www.nature.com/srep/2015/150303/srep08653/full/srep08653.html

問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科 放射性同位元素施設/生物・環境工学専攻 放射線環境工学研究室
准教授 二瓶 直登(にへい なおと)
Tel:03-5841-7882
Fax:03-5841-8193
研究室URL:http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/radio-plantphys/ret/index.html

東京大学大学院農学生命科学研究科 放射性同位元素施設/応用生命化学専攻 放射線植物生理学研究室
准教授 田野井 慶太朗(たのい けいたろう)
Tel:03-5841-8496
Fax:03-5841-8193
研究室URL:http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/radio-plantphys/index.html